アルスラーンは椅子に座り、スーリはアルスラーンに寄り添うように立ちながら、縛られたラジェンドラを見つめていた。
最初、椅子は姉上がとアルスラーンが言ったのだがスーリが拒否し、折れたアルスラーンが座ることとなった。
「あなたが、ラジェンドラ王子ですね」
縛られた身体をふんぞり返したラジェンドラが二人をみると、少しばかり目を開いた。
王子は年端もいかぬ子供で、傍らにいる王女はこの世のものとは思えぬほど美しかったからだ。
「聞いてはいたが、こんなに幼い大将だったか。それに加え…」
瞳だけを動かし、スーリを見た。
スーリと視線が交わるとラジェンドラは目を細め笑う。
「そこまで見目麗しいとはな。噂では聞いていたが、その美貌なら王子どもが欲しがる理由もわかる」
スーリはそっと目をそらす。
どうやら苦手な人種の王子らしい。
アルスラーンとスーリがラジェンドラの前に立つと、礼儀良く名を名乗り始めた。
「私はアルスラーン、王太子だ」
「姉のスーリです」
スーリは心なしか少し素っ気ない。
「それで、俺に何の用だ?」
「少しお話ししましょう」
「ほぉう? パルスでは縄で縛って話をするのか?」
アルスラーンはすぐにダリューンに目を合わせた。
ダリューンは剣を抜きラジェンドラに近づく。
ギクリと強張った身体に向かって剣を振り下ろすと、縄だけを床に斬り落とした。
「これでいいですか?」
ニッコリとアルスラーンは笑む。
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あっという間に広間は宴の場となりラジェンドラは上座へと案内される。
ラジェンドラの左右にスーリとアルスラーンが座り、みなが思い思いに酒と食事を進めた。
アルスラーンは舐める程度に。
スーリは程よく。
「アルスラーン殿、あまり酒が進んでおらぬのではないか?」
「い、いえ、そんなことはありませぬよ」
「まあま、とりあえず一杯! スーリ殿も、さぁ!」
ラジェンドラはそう言ってスーリにズイッと近づく。
スーリが気付いているかは知れないが、ラジェンドラの下心は丸見えだ。
他国に美貌を噂される姫君が今、自分の隣にいるのだ。仕方あるまい。
「あなたの相手は私がしよう」
ラジェンドラに傾けられた酒瓶を受けたのはファランギースだった。いつの間にかギーヴも加わっている。
アルスラーンとスーリは彼らに任せ、各々別々に広間を出た。
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