今夜_。
スーリはすることもなく、ただ体を休めるというのも苦痛でファランギースの部屋へ訪れていた。
ファランギースは矢を補充しており、スーリも自分の矢の補充をともに始めた。
「スーリ殿、ここ数週間ギーヴに何かされましたか?」
「ギーヴが私に? 何もないわよ」
不思議そうに首をかしげファランギースを見つめるも、手の動きは止めない。
「あやつもスーリ殿には真なる忠誠を誓っているようですし、下手に手は出さぬと思いますが」
ファランギースの話は五分理解し、残り五分は曖昧なため、苦笑をしてその場を乗り越えた。
するとナルサスが連れてきたアルフリードがやってきた。
どうやらエラムと何かあったらしく、ソファに顔を埋めていた。
ふと顔を上げるとアルフリードはスーリを見た。
「どうかした?」
視線に気づいたスーリが優し気な笑みで聞く。
「王女…さまは、ナルサスと仲がいいの?」
「えぇ、付き合いはもう長いわ。ナルサスは私の師でね、兄のように慕っているの」
思い出を思い出しているのか、スーリは目をつむり微笑みながら言う。
「じゃあ王女さまは、ナルサスが好きなの?」
「スーリでいいわ。そうね、好きなのは確かだけど、恋慕とは違うかしら。ただ師として、兄として、好きなだけよ」
アルフリードは恋敵ではないことが判明したのか、晴れやかな笑みを浮かべた。
すると今まで黙っていたファランギースが口を開く。
「ナルサス卿を好いておるのか?」
「えぇ!? うん……」
赤面し、アルフリードはクッションに顔を埋めた。
スーリとファランギースは妹ができたかのように感じ、笑みを零す。
今夜、三人は女性だけの話を楽しむ_。
崖の上からヒルメスはペシャワールを見つめていた。
片割れには黒魔導士の男。
「念入りに包囲網を巡らせたというのに…」
捕まえ、殺すことはできなかったがこれで終わりではない。
他にもいくつもの策はある。
男が地に溶け込み、その場に消えるとヒルメスは明かりが漏れる城を眺めながら呟いた。
「スーリ…」
探し、そして求めていた彼女は今、目の前の城にいる。
今すぐにでもかけていきたい気持ちをグッと抑え込む。
「あの日の約束誓いを守る…スーリ、必ずお前を__」
スーリは窓を見た。
遠くで呼ばれたような気がしたからだ。
しかし、そんなことはない。
「どうされましたか?」
「…いいえ、気のせいね」
そう首を振って微笑んだ。
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