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何日も歩き続けた四人は、やっとの思いでペシャワール付近の森を抜けた。

高嶺に出たせいか、辺りは薄く霧が出ていた。
日の出も上ったばかりで空は紫に近い。

先頭にギーヴとスーリが、後ろにアルスラーンとエラムがついていた。
後ろの二人は、エラムの夢の話などをしていた。

スーリらは黙って前を見つめながら後方の話に耳を傾けていたが、ふとギーヴが止まるとスーリは辺りを見渡した。


「…」


スーリの紫の瞳は輝いていた。
息をのみ、言葉を発することよりも当たりの景色に集中していたのだ。


「スーリ殿? どうかしましたか?」


ギーヴが少し覗き込むようにスーリに声をかけると、景色から目を離さぬまま首を横に振った。


「まさか、こんな形で外へ出るとは思わなかったけど…よかった」


ギーヴもスーリが見ている方角に目を向け、目の前に広がる景色を眺めた。


「綺麗……。ああ、もっと外の世界が見たいわ」


嬉々としてスーリは声をあげる。

そんなスーリをギーヴは見つめた。
太陽の光が背景になっているせいか、もともと美しい容姿のせいか、とても神々しく感じた。


「…これからもっと見られますよ、貴女の知らない外の世界を」


スーリは嬉しそうに笑顔を見せた。






再び足を進めた四人はファランギースとダリューンに合流した。

二人はルシタニア兵と交えていて、遠くではダリューンと恐らくカーラーンの息子__ザンデ__と剣を交わしていた。
そして、地を移動する黒の衣を纏った男_。


なんとか撃退し、六人は再びペシャワールへ目指し馬をかけた。

近づけば近づくほど分厚くなる敵の勢力に手を焼きつつも、ペシャワール城塞まであと少しと迫っていた。

そこで待ち構えていたのはルシタニア兵と、ナルサスが合流したペシャワール城塞の者たち。
その先頭にはキシュワードがいた。


「王太子殿下を守り参らせよ!」


崖の上にいたキシュワードは、後ろに控えていた部下たちに叫んだ。
自分も双剣を抜くと、馬に崖を駈け降りさせ敵へと斬り込む。

双刀将軍の名に恥じぬ活躍ぶりにより、ルシタニア兵は慌てて引いていった。


「キシュワード!」

「久しぶりね、キシュワード」

「アルスラーン殿下、スーリ王女殿下。よくぞご無事で、このような辺境の地へおいでくださいました。さあ、城塞へ参りましょう。万騎長バフマン殿もお待ちしています」


キシュワードは笑顔を見せ、一行を城塞へ案内した。
アルスラーンはキシュワードについていこうとするが、ナルサスの後ろに乗せた人物が目に入り、問いかけた。


「ナルサス、後ろの者は…」


ナルサスは目をそらす。

スーリもその人物を見つめる。
体つきなどから少女という事がわかる。

馬から降りた少女はフードを取り、満面の笑みで言った。


「あたしはアルフリード! ナルサスの妻だよ」

「え…」

「…え!?」


スーリ、アルスラーン、ダリューンが同時に声をあげるとエラムが一歩遅れ、声をあげた。



_
__




城塞へ入ると兵たちが喜びと歓迎の声をあげた。


「王子だ!」

「王女もいるぞ!」


アルスラーンとスーリは笑顔で向かい入れてくれる兵たちに安心した。


「ナルサス、別行動になっている間何があった? こんな大事な時に」


ダリューンはにやにやしながらナルサスを見る。
彼は弁解をしようにもどう言えば良いか迷っているようだ


「旅は孤独だ。策士殿とはいえ魔が差すこともあるだろう。こんな粗野な娘でも乾いた大地で出会えば恵みの花に見えるだろう」

「ナルサスの兄上も、そういうことがあるのね」

「スーリ!!」

「あら兄上殿、違って?」


ギーヴはナルサスをからかい、スーリは感想を述べる。

兄上、というのはスーリが幼いころ師であるナルサスに敬意をこめて呼んだものだ。

八人が馬から降りるとナルサスは全員に向き直り、弁解をし始めた。


「違う! 俺は襲われていたところを助けただけだ! …もういい」


襲われた、という言葉にダリューンが反応する。
ナルサスはアルフリードから離れると、ダリューンの横を通り過ぎる際、声を落として言った。


「あの銀仮面に襲われていた。ここに至るまでの包囲網はあいつの策だ」


ダリューンは重いため息をつく。

城からはアルスラーンとスーリの前にバフマンとキシュワードがやってくる。

四人で再会の喜びを交わし合うと、アルスラーンはすぐに力を貸してほしいと述べた。
それにスーリも賛同し、同じように頼み込む。

バフマンとキシュワードは膝をついた。
それに倣い、あたりの兵たちも残らずアルスラーンたちに跪く。


「ペシャワール城にいます騎馬二万、歩兵六万をあげて、殿下に忠誠を誓わせていただきますぞ!」

「ありがとう」


誰もがここから始まるのだ__と思った。

だが唯一、バフマンだけは曇った顔をしていた。



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