今、アルスラーンたちは馬をかけていた。
「王子を討ち取れ!」
「王女を捕らえよ!」
後ろには大勢の追手。
次の目的地になったペシャワール城塞に向かうべく、朝方の薄っすらと明るい空の下、七人は駆ける。
ふと、アルスラーンが馬を止め後ろを振り返ると、スーリも止まって振り返った。
「ダリューンたちは...?」
「どうやら、はぐれてしまったようです」
此処にいるのはアルスラーンとスーリ、エラム、そしてギーヴの四人のみ。
ダリューンたちは追手を引き留めるために立ち止まったのだろう。
アルスラーンは不安げな表情を浮かべる。
「アルスラーン、私たちは先へ進みましょう。彼らはきっと大丈夫よ」
「そうですよ、殿下」
安心させるようにとよくエム二人が頼もしく見えた。
ギーヴはそんな三人のやり取りを眺める。
やがて、アルスラーンたちは再び馬をかけた。
しばらくの間、ずっと走っているが追手は減りはせず増え続ける一方。
敵は矢を放ってくる。
ギーヴを先頭に後ろにいたスーリとエラムが即座に剣を出し、矢を切り落としていく。
「姉上! エラム!」
「貴方は前を見て!」
そして、一本の矢がエラムの馬に刺さりそのまま地面に転げて落ちていく。
「エラムッ!」
スーリとアルスラーンが同時に叫ぶと、ギーヴは即座に馬の速度を落とし、片手でアルスラーンを抑えた。
敵が迫ってくるエラムは一心に叫び続ける。
「行ってください!! スーリ様! 殿下!」
アルスラーンは手を伸ばしたまま走り続ける。
すると、彼の視界に長い銀の髪が靡いた。
__スーリだ。
そう気づく前に驚愕したギーヴの声が耳に入った。
「スーリ殿!?」
「貴方たちは先へ!!」
スーリはエラムのほうへ駆けていく。
ギーヴは彼女がそう言う人だと理解していたが、この状況下でもかと驚く。
そんなギーヴの隙をつき、アルスラーンはギーヴの腕から抜け出す。
エラムのもとへ向かった二人は、エラムに剣をふるう敵を切り倒し、アルスラーンは馬をおり手を差し出した。
ギーヴは呆然とし、呟く。
「なんで…アンタ、王族だろ……」
ありえないと、ギーヴは二人の背を見つめた。
エラムは二人を交代に見上げ、信じられないというように口を開く。
「何故、戻ったのです…」
「当たり前だ、友を助けるためだ!」
アルスラーンは強く言い、それに賛同するようにスーリも微笑む。
エラムがアルスラーンの手を取り立ち上がったが、三人は敵兵に囲まれていた。
いくら二人より剣にたけているスーリでも、突破するのは無理だ。
「…なるほど……」
ギーヴはスーリが前に言った言葉を思い出していた。
城で画締めて会話を交わした時、スーリは弟__アルスラーン__のことをこう言っていた。
『アルスラーンは見捨てたりしないわ、絶対に』
スーリだけではなく、アルスラーンも他の王族とは違うようだ。
まったく、変わった方たちだ…。
突如、空に金貨が舞った。
敵兵はそれに夢中だ。
これは…?
そう思っているとギーヴが駆け寄ってくる。
「今のうちに!」
アルスラーンはすぐにエラムを後ろに乗せた。
これはギーヴの仕業だ。
スーリがギーヴに視線を向けると、それに気づいたギーヴは不敵に笑んだ。
再び四人は駆ける。
一心に馬をかけていると、目の前は崖でこれ以上進めなかった。
後ろに後退したいが、敵が迫ってくる。
八方塞がりだ。
馬を降りた四人は顔を顰める。
すると、ギーヴは何を思ったのかスーリを横抱きに抱きあげたのだ。
「っわ! ギーヴ!?」
「スーリ殿は危険です故、しっかりと掴まってくだされ」
ギーヴは口端を上げ、不敵に笑む。
三人は意図がよめず、ギーヴを見つめた。
四人は崖の下の足場にいた。
崖の上では敵が下を見下ろし、下へ行けと叫んだ。
一人残った敵兵が舌を再び見下ろす。
「本当に落ちたのか…?」
川を渡るために…。
すると、キラリと何かが光る。
気付いた時のためにはこめかみにナイフが刺さり、川へ落ちていった。
「落ちるわけないだろ?」
再び崖の上にのぼった四人は一度落ち着いた。
するとエラムがアルスラーンとスーリに向かい合い、膝を深くついた。
「申し訳ありません。殿下たちをお守りする身というのに、守られるなど…!」
「顔を上げてくれ! エラム」
アルスラーンはやめてくれと急いでいった。
エラムは納得できないのか、一向に顔をあげようとしない。
「エラム、私たちは当たり前のことをしただけよ。ね、だから顔を上げて」
「スーリ様…」
「姉上の言う通りだ、エラム!」
スーリは優し気に微笑み、アルスラーンもスーリの言葉に先導しニッカリと笑う。
エラムは心なしか嬉しそうに、つられて笑み立ち上がった。
スーリは後ろのほうで敵を警戒し続けるギーヴに近寄った。
「ギーヴ、さっきはありがとう」
「はて、なんのことやら。俺は当然のことをしたまでだ」
ギーヴは自分の髪を掻きあげながらスーリを見た。
スーリは微苦笑する。
「さっきの金貨。ごめんなさい、貴方…金貨が好きだというのに、捨てるような真似を…」
「えっ! あ、いや…。全然平気です、気にしないでください。いやむしろ気にしないでくれ」
本当に申し訳なさそうに言うスーリに戸惑い、ギーヴは片手を目の前で気にするなという意を込め、横に振った。
「そう…?」
「そうです! だからスーリ殿が気に病むことでは…」
「ならよかった」
スーリは安心し嬉しそうに笑む。
まぁ、もともと俺のモノじゃないしな…。
ギーヴは内心でぼやき、はは…と苦笑する。
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