一方、アルスラーンは部屋を訪ねてきたホディールと会話を交わしていた。
お互い鎧を包み、ホディールの背後には多くの衛兵。
「全ては王太子殿下のおんためです!」
ホディールは一層声を張り上げる。
その声に反応してか、二つほど隣の部屋にいたスーリが今から出発しても問題ない格好で、衛兵たちを掻き分けアルスラーンの部屋へ来た。
「先ほどから何事です」
「姉上!」
「おぉ! これは王女殿下、これから殿下方の御傍にあって害をなすものを処分いたします。その御許可を」
スーリはホディールから目を離さず、その貼り付けたような薄っぺらい笑みを見つめながらアルスラーンの隣に立った。
「つまり、ダリューンやナルサスを捨てろと…そう言うのね」
「そうなりますな」
「もし、ダリューンやナルサスたちを捨ててお主を選んだとして、今度はお主を捨てる日が来ぬとなぜ言える」
アルスラーンがそう告げるとホディールは薄っぺらい笑みから焦りの顔へ変貌させた。
アルスラーンは拳をプルプルと震わせ、スーリと共に瞳を鋭く光らせホディールを見やった。
「ナルサスたちの悪口をお主は言い立てる。だけどナルサスは、私に一夜の宿を与えておいて騙し討ちなどしなかったぞ!」
怒りを露わにしたのか、アルスラーンは大声で言い立てた。
そのまま二人は部屋から廊下へ出ると、心強い仲間の名前を叫ぶ。
「ダリューン! ナルサス! エラム! ギーヴ! ファランギース! すぐに城を出る!」
アルスラーンの声を、言葉を待っていましたと言わんばかりに大きな扉を音を立てて開き、五人はぞろぞろと二人の背に着いた。
「世話になったわ、ホディール」
少し目をやり、スーリが言い捨てると七人は廊下を進む。
「此処に長居は無用です」
「いい女もいそうにないしなぁ」
固く言うダリューンとは反対に、ギーヴは飄々と挑発げに吐く。
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「殿下! 王女殿下! お待ちください!」
馬に乗った二人のもとへホディールは馴れ馴れしく、愛想をよくし近寄ってくる。
全員が警戒をしながらホディールの戯言を聞く。
するとホディールは何を企んでいるのか、二人の手綱をお詫びに…と御託を並べ、アルスラーンには二人、スーリには一人の兵を近づかせた。
懐の短剣を兵がゆっくりと出すと、アルスラーンのほうではギーヴとファランギースが。
スーリはエラムによって短剣をはじき、切り付けた。
「王太子殿下と王女殿下に短剣を突き付けるとは、何の謂いあってのものか!」
ファランギースがホディールに強く言う。
いよいよ逃げ場を亡くしたホディールはついに本性を現した。
「王太子と王女を捕らえよ!」
ホディールの呼びかけに壁の上の弓箭兵が弓を構えるも弓の弦が立ち所に切れ、全く使い物ならない。
よくやったとナルサスはエラムを見た。
そのことで、場は一旦は平静を取り戻した。
「この狡猾な狐め…!」
「なんの、おぬしの足元にもおよばんよ。さてカシャーンのご城主。こちらには数少ないが、弓矢もあれば射手もいる。ここまでの戦況を鑑みても懸命なおぬしのことだ。城門を開いて送り出すという考えに、ご賛同いただけると思うが?」
ナルサスは笑みを浮かべる。
ホディールは奥歯をギリギリとさせ、やがて兵たちに叫ぶ。
「殺せ!! 王太子は殺し、王女は捕らえよ!!」
そこから真っ暗闇の戦闘が繰り広げられた。
炎を消したのは相手だが、真っ暗闇の中で相手の戦力は落ち、数も少なく一人ひとり腕の良い仲間を持ったこちら側は、難なく兵を切り倒していった。
スーリも馬に乗りながら剣を振り下ろしていた。
目の前の敵を切り倒していると、背後に兵がいた。すぐに対応に入るとするとエラムが矢で射貫いた。
「エラム!」
「お怪我はありませんか、スーリ様」
「えぇ。ありがとう、エラム」
「後ろはお任せください!」
エラムは嬉しそうに笑むとお互い背を向き合い、兵を倒した。
やがて、ダリューンがホディールを討ち取り戦いは終わった_。
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