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夜中_。


ナルサスの隣のベッドで眠ろうとしていたダリューンは、ヴァフリーズの言葉やカーラーンの言葉を思い出していた。


アルスラーン殿下とスーリ王女殿下に忠誠を_。
正統な王が即位する_。


起き上がったダリューンにナルサスは気付き、自分も起き上がった。


「ナルサス、お主に一つ聞いてみたいことがある。…殿下や姫様が先王オスロエス五世の遺児であることはあるまいな」

「それは俺も考えないでもなかった」


ナルサスはふぅ…、と息を吐いてから言葉を繋げた。


「だが、殿下のご誕生時期から考えてその可能性はない」


この部屋の壁紙にはパルス王家の系図が描かれている。
ダリューンの瞳にはそれが酷く目に入った。


「では姫様は…」

「そう、そこだ」


ナルサスは人差し指でダリューンを指す。
ベッドから起き上がる体勢を直してから話を続けた。


「スーリの誕生時期から考えれば、その可能性もなくはない…が、元々あやつの誕生はしばらくの間隠されていた」


ナルサスの言う通り、スーリ王女殿下の誕生を世間に公表したのはスーリが五つになる頃……つまり、約五年ほどは隠されていたのだ。
それに関しては、姫が病弱で病を患っていたためと王が発表。


現にスーリは眼病を持っている。

いずれ視力を失われると言われていたが、最近は回復しており完治にも近いと言われている。


「今の段階では何も言えん。だが、もしそうであった場合…殿下とスーリは義姉弟ということになる」

「待て…! 王妃様たちとはあまり似てはおらぬが…あの御二方の容姿は似ているであろう」

「容姿、つまりは髪がな。だが考えてみろ、どちらの可能性でもスーリが病を持っていたのは事実。そして、眼病のほかに病を持っていたら…」


その病のために、公表を控えていたとしたら……。

ダリューンは息をのんだ。
ほかの病があの身を蝕んでいるなど、考えたくもない。


「あの五年間はその病のため公表をせず、その病の影響で色素を失った…という説もできる」

「色素を失う病など、あるというのか?」

「断定できん。病の種類など、知られていない数のほうが多い」


ナルサスがいい終えるとダリューンは何も言わずに黙った。
ただ黙り、ナルサスの言った仮定の話を考えたのだ。


「ダリューン、俺は今、スーリとアルスラーン殿下が義姉弟という説を立てた」

「あぁ」

「俺はこの説が一番有力だと思っている」


ナルサスは腕を組み、ダリューンを見た。
ダリューンは何も言わない。それを見てナルサスは再び口を開いた。


「お前、スーリが世に出てから流れた噂を知っているか?」

「知っている。今では薄れたが、消えることはないからな」


噂。それはスーリの生まれに関する噂だ。


スーリが二十歳ということは、生まれはパルス歴三〇〇年だ。
しかし、スーリがアンドラゴラスとタハミーネの子だった場合、それはあり得ないことだった。

タハミーネをパルスへ連行したのは三〇三年の事。王妃になったのは三〇五年であり、アルスラーンの誕生はその翌年だ。

となると、スーリの誕生が合わないのだ。

王妃となる前にアンドラゴラスと子をなしていたとしたら、スーリの生まれは三〇三年であり、歳は十七となる。
スーリの誕生が一、二年誤差があったとしても、三〇三年にはいかないのだ。
そうなれば、スーリの母はタハミーネではなく別の女となる。

つまりは、アルスラーンとは異母姉弟だ。


しかし、アルスラーンの容姿とスーリの容姿が似ていたことから、母はやはりタハミーネではと噂されたが、やはり辻褄があわず、謎となった。


「殿下とスーリが異母姉弟…しかし、真実は義姉弟。この説が一番有力だな」


つまり、スーリが先王オスロエスの遺児である可能性だ。


「たしかに、そうかもしれぬ…」


ダリューンは否定できなかった。
ナルサスの言う通り、その話が一番辻褄にあうのだ。


「まだ決まったわけではい。さすがに、こればかりは我々ではわからぬよ」


考えても今の段階では答えが見いだせない。
押し黙る二人の間にエラムが天井裏から部屋に入って、その後ギーヴも戻ってくる。


二人は今の話を頭の隅に追いやり、今すべきことに集中した。



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