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身軽にバルコニーの外を伝っていったアルスラーンは、やがてダリューンたちの部屋へとたどり着き中を覗きこんだ。

その瞬間、刃が鼻先をかすめ、アルスラーンは「わ!」と声を上げ尻餅をついた。


「で、殿下…?!」

「やぁ、ギーヴ…」


尻もちをついた腰を上げるとダリューンが問い詰めてくる。
それにアルスラーンがバルコニーを渡ってきたことを話すと、ダリューンは青ざめた。


「バルコニーを渡るなど…!? そんな、危険な真似をされるとは…」

「廊下に衛兵がいたから…」


アルスラーンは苦笑し少し小さめの声で言う。


「万が一、足を滑らせるようなことがあったらどうなさるんです…!!」

「かーほーご」


キンと剣を収めながらギーヴは言う。

エラムはアルスラーンを椅子に案内し、座らせたその瞬間、アルスラーン以外の者はもう一つの気配に気づいた。

気付いていないアルスラーンにナルサスが静かにするよう手で表し、エラムに視線で合図をする。
先ほどのギーヴと同じ位置に立ち、その気配が部屋に入ろうとした瞬間エラムは短剣を首に突き立てた。

その気配の正体は…。


「っわ!」

「なっ! スーリ様っ!?」


スーリはいきなり短剣が目の前に来たことに驚き、アルスラーンのように尻もちを搗く。

エラムは慌てて短剣をしまい、スーリの手を掴み起き上がらせる。
すぐにエラムは謝ってきたが、スーリは気にすることはないという。


「どちらかというと、勝手に部屋に来た私が悪いというか…」

「スーリ様! まさか、貴女もバルコニーを…?!」

「え、えぇ。外へ出たらアルスラーンが見えたので…つい……」

「姉上、私のせいで…」

「あぁいや! アルスラーンのせいでは…!」


本気で心配してくるダリューンにスーリは耳飾りを指で遊びながら言った。
申し訳ないと苦笑する。

一方落ち込むアルスラーンにはどうにかして笑わせようと慌てていた。


「まったく…お転婆な妹分だ」

「その稀にみる幼げな行動も、スーリ殿の魅力と言えよう」

「フ、否定はせん」


やがて、エラムはアルスラーンの隣の椅子にスーリを座らせ、本題に入った。

話によると、アルスラーンの部屋にホディールが来たらしい。
そして、制度の話など追求した。

アルスラーンはナルサスに相談するため、曖昧に返事を返しすぐに部屋へ向かったという。
それにつられ、スーリも来たというわだ。



話を終えるとアルスラーンはエラムに送られ部屋に戻った。

スーリも帰ればよかったが、まだ話すことがあった。
それをナルサスも察していた。

二人が部屋を出ていき、扉が閉まるとナルサスが口を開く。


「…それで、お前には何があった」


部屋に残った三人はスーリの言葉を静かに待った。
スーリはナルサスの問いかけに一拍間を置き、一語吐き出す。


「水…」


「みず…?」


ギーヴが聞き返すとスーリは「えぇ」と答える。
とたん、ダリューンが血相を変えた。


「まさか…っ!!」

「毒、か…」


スーリは察したのだろうとその先は言わなかったが、すでに察したナルサスが漏らす。


「ホディールめ…っ!」

「落ち着けダリューン。…それで、その水はどうした」


ワナワナと溢れ出す怒りを露わにするダリューンをナルサスが宥め、スーリに話を振る。


「飲んでないわ、そのまま。毒が水だけとは限らないから、あまり辺りには触れてないわ」

「賢明な判断だ。そうか、毒か……」


ナルサスは顎に手を当てる。


「大方、スーリ殿の動きを封じたかったのでしょうなぁ」

「そう考えるのが妥当だ」


今まで黙っていたギーヴの言葉にナルサスは答える。
ギーヴはやれやれと手を上げる。


ナルサスは一度スーリに部屋へ戻るよう伝えた。一人では危険なため、ギーヴをつれて。
ダリューンは酷く反対したが、スーリにまで咎められると何も言えなくなり、ナルサスの考えに任せることにした。


廊下から帰ろうとしたがアルスラーンが部屋を出て行ってから衛兵の数が増え、ギーヴもスーリを送った後ファランギースに伝言を伝える役目を持ったため、バルコニーから戻ることになった。


「それではスーリ殿! 遠慮せず、俺に体をお預けください」


そういって両手を広げる。
どうやら抱えていくらしい。


「ギーヴ!」

「ダリューン卿! これはスーリ殿の身を案じての事。手を支えるのみでバルコニーをスーリ殿にわたらせるなど、危ないではないか」


ギーヴの話に納得してしまい、押し黙ってしまったダリューン。
隣ではナルサスが溜息をつき、ダリューンの肩に手を置いた。


「ダリューン。気持ちは十分わかるが、此処はあきらめろ」

「…」


そうして、ナルサスとダリューンは二人を部屋から見送った。




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