敵兵から逃げながら、7人はカシャーン城塞にたどり着いた。
そこを収めるホディールは喜んで招き入れ、大広間へと案内された。
そこにはたくさんの食べ物。
中心の前に横からホディール、アルスラーン、スーリの順に座り、両端にずらりとダリューンたちが座り、食事と酒を飲んでいた。
ホディールは一度も区切れることもなく話をし続ける。
話されているアルスラーンやスーリは苦笑し、相槌を打つ。
そんな二人の様子をダリューンは苛立ちながら見守り、ギーヴが隣のファランギースに耳打ちをする。
「ファランギース殿、あの男をどう思う?」
「よく喋る男じゃ。舌に油でも塗っておるのであろう。それもあまり質の良い油とは思えぬな」
ファランギースの言葉に、ギーヴは頷く。
「まことに、お喋りな男はそのことでかえって不実をさらけ出すものだな!」
「誰かのようにな」
ギーヴは再び二人を、いや…スーリを見た。
苦笑や相槌で疲れたのか、スーリは目をそらし一口酒を飲み、小さくため息を吐き出していた。
少し目を伏せた瞼から長いまつげが、吐き出した唇は酒で濡れ、耳に掛けた髪はゆらりと落ちる。
妖美な姿におもわずうっとりとしてしまう。
「惚けすぎじゃ」
「おっと」
ファランギースに言われ、笑いながら言った。
すると向こうではホディールが何かの話を切り出した。
「殿下。私には息子がおりませんが娘がおります」
「はぁ…」
「年は十三、これがなかなかの器量よしでしてな。もし殿下のお側に仕えさせていただけるなら娘にとってもこれ以上の幸福はございませんな」
「ッブ…!!?」
アルスラーンは飲んでいた飲み物を思わず噴き出した。
隣にいたスーリは少し前から予想していたのか、黙っている。
「殿下も御年十四、それそろ妃のことなど考えられては…」
「い、いらぬ!! そ、それに、姉上だってまだ…」
アルスラーンはスーリを見る。
自分より6つ上のスーリでもまだ夫を持っていない。
本人としても、まだ必要ないと思っている。
というよりも、持ってほしくないのが過保護な者たちの本意だが。
「ですが…スーリ王女殿下もそろそろ御考えなのでは?」
「え…」
「え?」
「なっ!?」
「ごほっ」
アルスラーンとスーリは同時に声をあげた。
ダリューンはホディールの言葉に驚きすぎて大きく口を開け、ナルサスは咽ていた。
エラムもナルサスに似たように少し咽、ファランギースは無表情。ギーヴは愉快そうにこの場を楽しんでいた。
「い、いや。私はまだそういうのは…」
「それはそれは…。ですが、王女殿下ももう二十と伺っております。いつまでもこのような…」
ホディールは話を続けたが、スーリの耳には届いていなかった。
早く終わらないだろうか…。こういった話は苦手だ…。
心の中で呟く。
内心で溜息をついたところ、嫌々ホディールの話に耳を傾けた。
「もしよろしかったら、私が王女殿下のご結婚相手をお探しに…」
「ダメだッ!!!」
突然二人の間にいたアルスラーンは大声を出し、立ち上がった。
周りの人はみな、呆然とアルスラーンを見上げた。
少しの間をおいて我に返ったアルスラーンは顔を赤くし、ゆっくりと腰を下ろし小さな声でブツブツと言う。
「そ、その…姉上にはまだその気がないと言っていたので…無理強いは、と……思いまして…」
俯むくアルスラーンは耳まで赤く染めている。
そんなアルスラーンが可愛く思え、スーリは小さな子供に向けるような笑みを浮かべ、アルスラーンの頭を撫でた。
「アルスラーンの言う通り、その気はないわ」
「そうでございますか…」
ホディールは呟くように言うと立ち上がり、部屋へ案内するといった。
七人はホディールの従者についていき、部屋に案内されたがアルスラーンとスーリは個室だった。
それにダリューンが強く反発したが、ナルサスに留められ二人にも良いといわれ、仕方なく引き下がった。
スーリの部屋はアルスラーンの二つ先の部屋。
一室が広いため、距離はかなり離れている。
「はぁ…」
広いベッドに腰を下ろす。
ベッドのサイドに置かれた机に果物や水が置かれているのに気づき、グラスに水を灌ぐ。
グラスを口に持っていき、飲もうとするとあることに気付いた。
水にしてはおかしな香りがある__。
外で小さな音がした。
不思議に思い、バルコニーに出てみるとアルスラーンがそれを渡っていく姿が見えた。
「アルスラーン? どこに…」
一度足元をみて、服の袖を持ちアルスラーンの後を追った。
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