一方、ダリューンとナルサスは夜のエクバターナで交戦していた。
「何事か…探っている者がいると聞いてな」
月を背負い、ヒルメスはダリューンを見下ろした。
直後、互いの刃がぶつかり合う。力は拮抗していることに、ヒルメスは微かに高揚した。
「痴れ者。名を聞いておこうか…!」
「…ダリューン」
ダリューン。
その名に驚き、そして更に高揚した。
「こいつは傑作だ。あのヴァフリーズの甥か…!」
ヒルメスは高々に声をあげ笑い叫んだ。
「ダリューン、教えてやろう。貴様の伯父ヴァフリーズを殺ったのは、この俺だ!」
「っ!」
「アンドラゴラスの飼い犬めが、それに相応しい報いを受けたわ…! 貴様の死に様も伯父に倣うか!!」
ダリューンの殺気が膨れ上がり、そのまま一息に斬り込んだ。
剣先がヒルメスの仮面を切り裂く。
銀の仮面が地面へと落ちると、ヒルメスは露わになった顔でダリューンを睨みあげた。
「おのれぇ…!! ダリューン!!」
「火傷…?!」
ヒルメスの攻撃が一段速さを増す。防戦一方にならぬよう、ダリューンも攻撃に転じようとする。
だが、一瞬の気遅れが仇となった。
ヒルメスがダリューンに向かって剣を振り被り、やられる、とダリューンも直感した。
だが、突然脇から攻撃され、ヒルメスは大きく飛び退いた。
「おいおい、名前も聞いてくれないのか?こちらから名乗るのは気恥ずかしいではないか」
「誰だ道化者…!」
「では、改めて。我が名はナルサス!次のパルス王の世に宮廷画家を勤める身だ。画聖マニの再来と人は呼ぶ」
「誰が呼ぶか!」
ダリューンはすぐにナルサスの言葉に突っ込んだ。
「ふん、飼い犬とヘボ画家か。お似合いだな」
「ヘボ画家…? それは、このナルサスのことか!」
ヘボ画家発言にナルサスが間合いを詰めてくる。
幾度も剣が交え、お互いの剣を抑えているとヒルメスは口端を上げ問いかけてくる。
「それで…? スーリはどこだ、ヘボ画家」
「スーリ、だと」
ナルサスは目を細め、眉を寄せた。
スーリはパルス第一王女だ。狙われる身であるのは理解できる。
しかし、この目の前にいる男が違う意味でスーリを狙っているように、ナルサスは感じた。
「ああ、そうだ。アイツは此処から逃げ出した。なら、向かうのはあのアンドラゴラスの呪われた子のもと…!」
ヒルメスはナルサスの剣をどけ、間合いを詰めてくる。
ナルサスはすぐに距離を置き、ヒルメスと離れた。
「そして、アレは貴様らといる。答えろ、スーリは何処だ!」
間合いをさらに詰めてくるヒルメスに、ダリューンが動き、刃を交えた。
ダリューンもナルサスと同じように感じていた。
スーリに対する執着を。
「何故スーリ様を狙うッ!!」
「アイツは俺のモノだ、昔からな! だから奪い返す!!」
ダリューンがヒルメスの剣をはじくと今度はナルサスが間合いを詰め、ヒルメスと刃を交える。
「スーリは昔から俺たちといたぞ! お前のような男は知らんな!!」
「戯言をッ! 貴様らがそう仕向けたのだろう!!」
「戯言を言っているのはどっちだッ!!」
ナルサスをはじくと再びダリューンの剣が迫る。
ヒルメスが一旦距離を取ると、二人を兵たちが取り囲んだ。
ダリューンたちはそれを見るや直ぐに引いた。
ヒルメスは馬で逃げていく二人の背を上から眺めた。
これで、スーリが誰といるのかは分かった。
先ほどの話は推測だ。こんな短時間で合流できたとは考えにくい。
しかし、スーリは合流できた。
ヒルメスは火傷を負った顔を手で覆い、目を細め夜空を見上げた。
目を閉じればそこにスーリがいる。
目を開ければスーリに思いをはせている。
必ず奪い返す。
あの日、俺から奪ったように。
必ず、スーリの縛るものをすべて消し去って_。
「スーリ……」
その声は風によってかき消された。
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