5人は円のように丸くエラム、アルスラーン、スーリ、ファランギース、ギーヴの順に座って剣を磨いたり、矢を補充したりしていた。
アルスラーンはスーリと一緒にいれるのがうれしいのか、耐えることなく話をし続けた。
そんな弟にスーリは優しく微笑みながら聞き続ける。
姉弟を残りの三人はほほえましく見ていた。
そんな時、ふとスーリがエラムに話を振った。
「それにしても、エラムも大きくなって。近いうちに背丈はぬかれるかしら」
「当たり前です。私は今、成長期なんですからもっと伸びますよ」
スーリは楽しみだわと笑む。
エラムも何年振りかのスーリとの再会に喜んでいた。顔には出さないが、内心はアルスラーンと並ぶほどだ。
「こうして、またスーリ様と話せてうれしいです」
「私もよ、エラム。ふふ、なんだか懐かしいわ」
アレムは嬉しそうにはにかむ。
微笑むエラムを見たギーヴが二人の話に割り込む。
「そういえば、スーリ殿はナルサス卿の妹分でしたな。幼いころからエラムと一緒にお過ごしに?」
「えぇ。ナルサスに連れられてきたとき、数度会ったわ。そうね…エラムはもう一人の弟のようなものかしら」
「お、とうと…ですか…」
エラムは少し残念そうに、不満げに言う。
スーリの隣では少しの間取られてしまったスーリを取り返そうと「姉上!」と言い、また二人で話をしだす。
エラムがはぁ…と溜息をつくと、隣のギーヴが小突いた。
「残念だな、エラムとやら。スーリ殿はお主を眼中に入れてないようだ。まぁ、この俺がいるから仕方あるまい」
自信満々にフッと笑うギーヴを少し睨みあげながら、少し怒気を含んだ声でエラムは言う。
「スーリ様で遊んでいるのなら是非ともお止めいただきたい。貴方は少し距離が近すぎます」
「ほう…、つまり嫉妬か」
「なぁっ!?」
声をあげたエラムはすぐに殿下たちを見た。
どうやら自分の声は届かなかったようで、安心する。
ギーヴはニヤニヤしたままだ。
「と、とにかく!貴 方の遊びにスーリ様を巻き込むのは…!」
「遊びでなければいいのか」
さっきまでの飄々とした態度とは打って変わっていた。
その雰囲気にあっけにとられていたが、再びいつもの笑みをギーヴが浮かべると、エラムははっと我に返る。
「…少し水を汲んできます」
エラムは立ち上がる。
アルスラーンやスーリがついていこうとするが、スーリは止められ家に残る羽目になった。
二人が部屋を出るのを確認すると、今まで黙っていたファランギースが口を開く。
「ギーヴ。エラムをからかい過ぎじゃ」
「おや、ファランギース殿…もしや俺に嫉妬を…!」
「エラムがどうしたの…?」
スーリは内容が読み込めず、首をかしげる。
「なに、大したことじゃありません。男と男の会話です故」
ギーヴの答えにさらに首を傾げ。
ファランギースは息をつく。ふと、隣に座るスーリを見ていった。
「スーリ様、少し御髪が乱れております」
ファランギースに指摘され、髪を触る。
自分ではわからない。
ファランギースはやろうかと申し出、スーリは頼んだ。
ファランギースの指がスーリ髪をとかす。
その姿をギーヴは眺めていた。
「ふふ」
スーリが嬉しそうに頬を上げた。
「どうかなさいましたか?」
「いえ。なんだか…姉がいたらこんなだったのかな、と」
ファランギースの問いかけに答える。
彼女もスーリにつられ、美しい笑みを浮かべた。
「それからファランギース。もっと気軽に呼んで、話してくれて構わないわ」
「ですが…」
「ナルサスを見てくれ。砕けてくれたほうが嬉しいの、私は」
ファランギースは悩んだ末、ではスーリ殿とお呼びしますという。
言葉は丁寧だが、そう呼んでくれるだけでもうれしかった。
二人の姿はまるで姉妹のようだ。
美しい正反対の容姿を持つ、姉妹。
ギーヴは楽しそうに眺め、それに気づいたファランギースが迷惑そうに言う。
「なんじゃ」
「いや、やはり美女が並ぶと良いと思ってな」
スーリはそんなことないとはにかむ。
自分の容姿がどれほどのものか、わかっていないようだ…。
そういえば、スーリは今いくつだ…?
ふと思ったギーヴは早速聞く。
「二十です」
「ほう」
「これ、ギーヴ。失礼じゃろう」
「いやはや、気になったもので。スーリ殿も色恋の一つや二つあるので後思ってなぁ」
ギーヴはそんなこと思ってもいないが、実際はどうなのか確かめてみた。
「そ、そんな…」
スーリは少し頬を赤くする。
スーリはそう言ったことが一度もないのだ。
それは本人の興味のなさや、周りの守備が厳しかったこともある。
「ないのですか、スーリ殿」
「あ、ありません! そんな…」
ファランギースの問いに赤くして答える。
ギーヴは一人、また面白そうに笑んだ。
この純粋な花を、自分に染め上げるのは__どんな気持ちだろうか。
ギーヴは密かに口端を上げた_。
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