ナルサス、ダリューンの両者は隠れ家へ行くと、三人に王太子と王女殿下を預け、王都エクバターナへ偵察のため旅立った。
旅立つ前、外で馬の準備をしている二人にスーリは近寄った。
「姫様、どうかなされましたか?」
スーリが出てきたことにいち早く気が付いたダリューンがそう問いかけると、ナルサスも手を止めスーリと向き合った。
「いいえ。見送ろうと思って」
「わざわざ、そんなことをしなくても良いのですよ?」
「私が見送りたいの」
スーリはそう言って笑う。
二人は合流した時よりも元気を取り戻したスーリに安心し、微笑む。
「…気を付けてね」
二人は強いから、絶対に平気だろう。
しかし、脳裏には最後に見た王宮が赤く燃え上がる風景がよぎってしまい、つい言ってしまう。
「心配するなスーリ。俺らが強いとお前も知っているだろう」
ナルサスは安心させるようにスーリの頭をなでる。
スーリは照れくさそうに、そうねと答え微笑んだ。
「…スーリ、少しことが落ちついた合間に話でもしよう。お前の好きな歴史や文化を教えようではないか」
ナルサスがそう言うとスーリは子供のように目を輝かせ、嬉しそうに笑う。
「えぇ! 約束よ、ナルサス」
「あぁ」
ナルサスとダリューンは馬にまたがり、一度スーリに振り向くとそのまま馬を駆けて行った。
「それでは、行ってまいります」
「えぇ」
スーリは小さくなっていく後姿を眺める。やがて二人の影は消え、穏やかな風がスーリの髪を揺らした。
少し不安げに息を零すと、隠れ家から出てきたファランギースが声をかける。
「スーリ王女殿下。そろそろ中へお戻りに」
「ファランギース。そうね、ありがとう」
微笑みかけ、家に戻ろうとする。
彼女とすれ違う直前、ファランギースがスーリに問いかけた。
「姫様、一つお聞きしてもよろしいですか」
スーリは不思議そうに首をかけげ、次の言葉を待った。
「あの男…ギーヴとやらは、貴女様に忠誠を誓われているのですか?」
スーリは目を丸くした。
やがて瞳は細め、笑う。
「どう、なのでしょうか…?」
曖昧でよくわからないと答える。
「けど、忠誠を誓わないほうがいいのかもしれないわ」
「何故ですか?」
「彼ほど自由が似合う人など、私は知らないもの」
何処までも自由に生きるのがお似合いだ。
スーリは微笑むとそのままいえにもどっていく。
ファランギースも後に続き、家へと戻っていった。
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