先に進んだスーリは途中で弓矢を回収し、馬に乗っていたルシタニア兵を討ち取り、白い馬で移動していた。
とはいっても、アルスラーンの居場所はわからず、噂や生きそうな場所を考えやみくもに探すしかあるまい。
すると、視界に馬で移動する一人の少年が目に入った。
「あの少年は…」
茶髪のアルスラーンと同じぐらいの少年。
あの少年は見たことがある。
確か…。
スーリはその少年の後を追った。
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「ナルサス様、エラムです、今戻りました。」
「エラムか、ご苦労だったな」
隠れ家についたエラムはナルサスとダリューン、アルスラーンにエクバターナで来たことを説明した。
「エラム、姉上は…」
アルスラーンは話を聞いた後、すぐにスーリの所在を聞いた。
エラムは瞳を閉じ、首を横に振る。
「いいえ…。どうやら、エクバターナから脱出したらしいですが…」
「なんとか逃げられたか…」
ナルサスがポツリとつぶやく。
アルスラーンやダリューンも表情を暗くする。
すると隠れ家の近くで馬の足音が聞こえ、すぐそばで馬から降りる音がした。
アルスラーンやそれを守るダリューンは奥へ下がり、ナルサスは剣を握って入り口付近に立った。
フードを被ったスーリは少年が来たであろう場所に足を進める。
すると背後から剣を向けられ、下手に動けなくなった。
「女か…貴様、何者だ」
この声…何年ぶりに聞いただろう。
「ナルサス…?」
名を呼ばれたナルサスは訝し気な顔をした。
スーリは振り返るとかぶっていたフードを取った。
ナルサスの目の前には、妹分であるスーリ。
「スーリ!?」
「ナルサス!」
スーリは嬉しそうに声をあげた。
剣を収めたナルサスはすぐさまスーリの両肩を掴み、ズイッと顔を近づける。
「なぜおまえが…!? いや、どうやって…」
あまりのことに動揺したナルサスにスーリはクスリと笑った。
その直後_。
「姉上!!」
奥からアルスラーンの声。
振り返れば、追っていた少年とダリューン、そして弟のアルスラーン。
アルスラーンは薄っすらと涙を浮かべ、姉の腕の中へ飛び込んだ。
「姉上!! ご無事で…よかったです!」
腕の中に飛び込んだアルスラーンの力によってスーリは尻もちをついた。
アルスラーンは離すまいとスーリの腹部にがっしりとしがみつく。
そんなアルスラーンの頭を優しく撫でる。
「貴方も無事でよかったわ…アルスラーン」
微笑むスーリ。
そんな二人をナルサスやエラムは見守った。
「姫様ッ!!」
立ち上がるとダリューンが奥からやってきた。
「ダリューン…!」
ダリューンはスーリに近寄ると肩を引き寄せ、力ずよく抱きしめた。
その強さから彼の心配していた気持ちが伝わる。
「ご無事で…。姫様」
「…えぇ。ありがとう、ダリューン」
黒衣の騎士の背に、そっと腕を回す。
ダリューンが離れると彼女の目に入ったのは追っていた少年_エラム。
「エラム!」
「お久しぶりです、スーリ様。ご無事で何よりです」
エラムはそう言って微笑んだ。
「姉上はナルサスやエラムを知っているのですか?」
二人を知っていることに疑問を持ったアルスラーンはスーリにそう尋ねた。
「えぇ。ナルサスは私の師で、よく会っていたからエラムとも昔からね」
「よい弟子を持った私は幸せだな」
ナルサスはスーリの頭をなでる。
何年振りかのナルサスの再会に、スーリは嬉しそうに目を細めた。
その後、スーリは今までの経緯を話した。
ギーヴのことは名をださず、「助けてくれた人」と言って。
意図的ではない。自然とそういった。
「何より、お前が無事でよかった。スーリ」
「ありがとう、ナルサス」
「姫様、どうか御休みになってください。お疲れでしょう」
「そうだな…スーリ、あまり長くは休めぬが少し眠れ」
ダリューンとナルサスがそう言う。
それにアルスラーンやエラムも賛成する。
スーリはその言葉に甘えることにした。
「わかったわ」
「姉上! こちらへ」
「武器はお預かりしますよ」
「ありがとうエラム、アルスラーン」
武器を預けたスーリはアルスラーンに引かれ、奥へと進み体を休めることにした。
その間にナルサスはカーラーンについての作戦を練った。
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