目の前には赤が広がっていた_。
宮殿_?
そこは赤い炎で包まれていた。
熱い、熱い、あつい…。
それは燃えていたエクバターナのように。
赤く、あかく…炎は業火のごとく燃え盛る。
どこ…ここはどこ__。
知っている。この光景を知っている。
憶えている。覚えている。
この光景は__。
「__っ!」
目が覚めたスーリは大量の汗を流していた。
べっとりとする感覚が気を悪くする。
「はぁ……はぁ……」
起き上がり、周りを見渡す。
そうだ、ギーヴと逃げ出して_。
そこで隣にギーヴが眠っていることに気付いた。
どうやら手をずっと握っていてくれたようだ。
スーリは起こさぬようにそっと手を放し、駆けられたマントをギーヴに掛けなおす。
空き家の隙間からは仕込む日差し。
アルスラーンを探さなくては…。
スーリは物音をたてぬように立ち上がり、出発の準備を進めた。
ふとギーヴを見る。
巻き込むわけにはいかない。
だから一人で行くのだ。
剣を腰につけたことを確認し、眠ったギーヴに近寄り耳元で小さく囁く。
「今までありがとう、ギーヴ。自由な良い旅を…」
せめてもの礼をするため、首に掛けた首飾りを握っていてくれた手にそっとおく。
売れば金になる。
こんなものしか送れないが、せめて…。
スーリは静かに戸を開け、その扉を閉じた_。
空き家にはかすかにスーリが足早に移動をする足音が聞こえる。
音が聞こえなくなると、目覚めていたギーヴは起き上がった。
手には首飾り。
行ったか…。
大方、迷惑はさせまいと言ったのだろうが…。
手の中にある首飾りに目を落とす。
売れば金になる。せめてもの礼のつもりか。
耳には囁かれた声が今も残っている。
あの美しい音色のような声。
「フ……」
どうやら自分が思っていたよりも、あの御方を気に入っていたようだ。
「逃げるものほど追いかけたくなるのは男の性分だ。なぁ…?」
ギーヴは一人、ニヤリと笑った。
さぁ、あの御方を追いかけよう。
あの美しい一輪の花を__。
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