部屋の中で、一人城外を眺めながら椅子に座っていた。
空は真っ黒で灰色の雲が覆う。
どんよりとした、晴れない空はまるで自分を表しているようだ。
ふと、目線を下ろす。
「…」
今すぐにでも、此処を出ていきたい。
いや、この国から逃げ出したいというわけではない。
ただ何もせず兵たちにだけ任せたくないのだ。
何とかして手を貸したい。力になりたい。
一体何のための力だ。
しかし王女である以上、ここから出ていくわけにもいかず、何もできずにただ此処にいる。
戦いたい…戦わせてほしい。
けれどそんな自分を嘲笑うかのように、自らの両手が震えていた。
稽古のみで実践は皆無だからか…。
あぁ…嫌だな…。
一人で自虐的に笑う。
再び城外に視線を送った、その時……。
「__お迎えに上がりました、スーリ殿」
聞いた声に振り向くとそこには青い瞳を細め、微笑んでいるギーヴの姿があった。
腰には剣を。背には弓を。
「なぜ…。貴方は地下水路へ…」
「俺にばれた事に動揺した偽王妃殿が逃げてしまってな。はぐれたんだ」
片手を上げ、いつもの調子みたく笑いながら言った。
ならなぜ戻った。
このまま逃げてしまえば。彼はこの動乱に巻き込まれずにすむ…。
「さ、逃げますぞスーリ殿」
ギーヴはそう言ってスーリに手を伸ばし、彼女の手を掴もうとするが彼女が自分の手を引っ込め、掴むことはかなわなかった。
「…」
「私は、此処に…」
この女は意地でもここに残るらしい。
「此処にいればルシタニアに捕まるぞ。そうすれば、お主は再び囚われの姫だ。何もできぬままにな」
「けれど……」
「逃げれば出来ることはある、今は逃げることだ。お主のために、民のために、アルスラーン殿下のために…」
アルスラーンのために…。
その言葉が酷く彼女の中で何度も繰り返された。
恐らくギーヴはわかっていた。
スーリを主に占めているモノはアルスラーンだという事に。
「さぁ、いつまでも檻の中で咲いてるわけにもいかぬだろう?」
美しき花を閉じ込めておきたい気持ちもあるが、それでも、自由に咲いていたほうがなお美しい。
ギーヴはもう一度手を差し伸べる。
スーリはしばらくその手を見つめ、ギーヴの瞳を見返した。
すんだ青の瞳…。
手の震えは既になかった。
スーリはそっと、その手を取る。
「…えぇ」
スーリの手を握ったギーヴはすぐにでも動こうとしたが、スーリの制止により動かした足をピタリと止めた。
「ぁ、ま、待って!」
スーリは手を放すと机から一つのカギを持ち出し、部屋の奥にあった扉のついた棚を開けた。
そこには剣と弓、短剣_。
スーリは一瞬迷ったのか手をためらった。そして取り出したのは剣。
すぐにその剣についたベルトを腰に巻き付け、近くにあった白いマントを羽織った。
「剣…」
「何も、戦えないわけじゃないわ」
強気な瞳でいったスーリにギーヴはフッと笑った。
「行きますよ」
ギーヴは再び手を握り、城内を走り地下水路へと向かった。
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