まほうつかいのとりこ


 翌日からクララは早速オーエンに魔法を教えることにした。魔力の成熟を促すだけでなく、自分の魔力を制御するためにも、魔法の扱いを知っておかなければならないからだ。だからまだ魔法の扱いになれていない大抵の魔法使いは、先達の魔法使いを師として教えを請いている。クララもむろん魔法を上手く扱えるようになるまで師に教えてもらっていた。つまり、これは魔法使いが必ず通ると言っても良い恒例事項なのだ。

 そして魔法使いが魔法を使うために必要なものが、呪文と魔道具。必ずしも必要であるわけではなく、魔法を安定させて使いやすくするために媒介として使用しているだけで、呪文や魔道具が無くても魔法を行使することはできる。呪文は、一般的に好きな言葉をつぶやき続けているうちに言葉に魔力が宿ると言われている。魔法使いによって言葉は異なり、様々な意味を含んでいることが多い。魔道具に関しても同様に、大切に持ち続けた愛着のあるものに魔力が宿り魔道具になると言われている。だから愛着するものが変われば魔道具も変わる。どちらも早めに見つけておくのが良いが、焦って探す必要もない。とくにオーエンの場合はもともと魔力が強いため、ある程度まで呪文や魔道具がなくても安定して魔法を使うことができるだろう。そのうち見つけられれば良い。

 魔法使いが最初に覚える魔法はシュガー作りだ。魔法使いが魔力を使って作り出すシュガーは特別で、体力回復や精神安定といった効果あり、よく人間たちが買いに来る。綺麗な星型のシュガーを作るのは結構大変で、形ばかりに気を遣っていると味がしなくなってしまったり、逆に甘すぎてしまったりもする。このあたりは、その魔法使いの性格や好みが顕著にあらわれる部分であるが、ある程度魔法をコントロールして仕えるようになる、という意味でシュガー作りは最初に習う魔法として最適なのだ。


「それじゃあ、いくよ。《クラールス》」


 呪文を唱えて、手のひらに魔力を集中させる。するとクララの手のひらに不思議な淡い光が放ち、どこからともなく小さな星形を舌シュガーが三つほど転がった。尖りが柔らかく淡い色をしたシュガーだった。それを見てオーエンはわあ、と声を上げる。シュガーをひとつ摘まんで、そのままオーエンの口元までもっていけば、オーエンはそれをパクリと食べる。口に含んで溶けた瞬間、口の中いっぱいに甘さが広がり、オーエンは上機嫌にそれを堪能した。


「じゃあオーエンもやってみよう、いい?」


 まずは目に見えない力を手のひらに集中させることをイメージさせ、それを小さな粒に押し閉じ込める。魔法使いが使う魔法は、自然の力を借りているにすぎず、自然と心を繋ぐことで行使できている。魔法を使ったことがないオーエンには、まずは自然と心を繋ぐイメージを作り、それを安定させる必要がある。

 オーエンは胸の辺りで両手をそろえ、手のひらに見えもしない力を集中させてみようとギュっと目をつむって、頑張ってクララに言われた通りにシュガーを作り出そうとした。しかし魔法を使ったことも無いオーエンにいきなり作り出すことはできず、手のひらに魔力が集中することも無かった。ギュっと目を強く瞑りながら何度も頑張るオーエンを応援しながら、クララは微笑ましくそれを眺めた。しかし、いつまでたっても魔力が微塵も感じ取れない。オーエンの魔力自体は強いものだが、それを全く引き出せていなかった。オーエンの表情はだんだんと沈んでいき、クララも分からず首を傾げるばかり。オーエンは不安そうにクララを上目遣いに見つめた。


「あ、あれ? おかしいな・・・・・・師匠と同じ言い方をしたと思うんだけど・・・・・・」


 クララは自分の弟子を持ったことがない。こうして誰かに魔法を教えるのはオーエンが初めてだった。先生としては右も左も分からないクララは、自分が教えてもらった時に師が言っていたことをそのままオーエンに伝えて教えるしかない。実際クララは、これでなんとかシュガーを作り出すことができたのだ。けれど、オーエンの場合は全くシュガーが作れない。魔法使いは自然から魔力を得るはずだが、オーエンはそれを全く得られていないように感じられる。


「ごめんなさい、クララ・・・・・・」
「うーん。全くなにも感じない?」


 しゅん、と落ち込んだオーエンはこくりと小さくうなずいた。オーエン自体の魔力が強いのに魔力が供給できていないとは。クララも分からずうーん、と唸ることしかできない。


「まあ大丈夫だよ、違うやり方を探してみよう! 焦る必要も無いしね」
「・・・・・・へへ、うん!」


 落ち込んでうつ向いてしまったオーエンの頭を撫でながら言えば、嬉しそうに表情を綻ばせて大きくうなずいた。

 オーエンの笑顔は可愛くて好きだ。ずっと見ていたと思えるくらい清々しくて純粋だ。オーエンの笑った顔を見るだけで自然と自分まで笑顔になってしまうのだから、そういう意味では既にオーエンは魔法が使えているのではないかと、馬鹿らしくもそう思ってしまう。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -