古代エジプトの太陽王オジマンディアスが召喚され、一夜が明けた。

オジマンディアスは召喚されると早々に、自分の拠点となるディーアの拠点を、自ら歩き回って探索した。

第一印象は、面白みのない。その一言だった。

オジマンディアスからすれば狭苦しい家だが、現代にしてみれば広い家。日本式ではなく、洋式のちょっとした館程度。
部屋数はあるというのに、その大半はだたの空き部屋。使われた形式のある部屋は、全くと言って良いほど存在しない。
あると言えば一室。窓もなく、太陽の光など入らないであろう、封鎖された部屋。それは、いわゆる魔術師特有の工房として使われていた。無論、そこがオジマンディアスが召喚された部屋であった。

オジマンディアスは中でも一番広い部屋、一般的にリビングとされる部屋を自分の部屋とした。
そうと決まれば、王の寝台やら王の玉座やらをディーアに用意させる。彼女も彼女で、嫌な顔一つせず朗笑を浮かべて楽し気にあれこれ用意してくる。

彼女にとって、平和を感じさせる一時が楽しいのだ。


そして現在。
オジマンディアスに頼まれた葡萄酒を用意しながら、玉座に座す彼に語る。


「本来、聖杯戦争とは七人のマスターと七騎のサーヴァントで行われる。最後に残った一組、その者が聖杯を手にし、願望を叶える。しかし、貴方も気づいている通り、既にサーヴァントは七騎存在する。故に、八人目である私たちは異分子イレギュラーです」


手元から目を外して、後ろを向いてオジマンディアスを見る。
彼は、話を聞いてはいるが、こちらに目を向けずにいる。
手元に視線を戻し、続けた。


「イレギュラーである私たちを殺すことは、正規の彼らにとってなんの利益にもなりません。彼らが私たちをたとえ倒したとしても、聖杯には一歩も近づけず。しかし、私たちが彼らを倒せば、聖杯に一歩近づく。何故なら、貴方は確かに聖杯によって召喚されているけれど、正規の彼らとは違う。故に、私たちは枠から外れているのです」


「まあ、聖堂協会や正規のマスターたちにとって私たちは邪魔ものなので、益も無き損も無き、っといったところですね」と続け、仕方のないことだとクスリと笑う。
葡萄酒を杯に注ぎ、玉座に座る太陽王に渡す。
受け取り、それを口に含めば太陽王は眉をピクリと動かし、顔を歪めた。

「お気に召しませんでした?」と伺えば「当世になって味も衰えたものよな」と帰ってくる。
それは仕方のない事。「文明が栄えるとともに、自然は姿を消していきますからね。新鮮さを失うのも仕方ありません」と言って朗笑する。

オジマンディアスは肘掛けに肘をたてて顔を支えながら、片手で持った杯を眺めて言った。


「……しかし、貴様、そうまでしてその願いを叶えたいか」

「ええ。けれど、聖杯に叶えてもらう願いは無いわ」


太陽の眼がこちらを向いた。
目を細めて笑みを浮かべながらディーアは語る。願望はある。真の願いのほかにも、願望は多く存在する。しかし、アレに叶えてもらうつもりはない、と。


「此処、冬木市の聖杯は不完全。召喚された七騎のサーヴァントの魂を捧げることで完成させる。不完全には、変わりないのだけれど」


部屋にあるソファの肘掛けに腰を掛け、片手に持つワイングラスを見つめた。
クルクルと揺らせば、中に入っている葡萄酒が海のようにユラユラと波打つ。
ディーアは何かを想起しながら口を開いた。


「聖杯にはね、詰まっているのよ。人の欲望、憎悪、怒り、死。完成されれば、それが世界に溢れ出す。溢れ出してしまったが最後、世界は汚染され、火の海となり、やがて壊れる――――それだけは阻止しなければ」

「故に、余を喚びだしたか」


肯定。
ディーアは頷き、自分を見つめる太陽王に視線を送った。


「人を超える力がいる。そのために、ライダー、貴方を喚びだした。偉大なるファラオ、どうかお力添えを……」


太陽の両眼が自分を見る。
全てを見透かすような瞳。その瞳の持ち主には何度も出会ったことがある。

ディーアは瞼を下ろし、ワイングラスに口を付けた。

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