それは数秒の一コマに過ぎないほど、一瞬の事だった。

黄金の王――ギルガメッシュ――がおもむろに片手をあげる。あれは彼がよくする仕草の一つに過ぎない。また、ある合図でもあった。
ディーアがそれを視認した時には、宝具は既に放たれ、彼女の肩を貫き。飛んでくる勢いのまま後方へ飛ばされていた。

一瞬の出来事に少なからず警戒していたオジマンディアスでさえ対応できなかった。
気付いた時には、マスターは後方へ遠のいていく。警戒していたというのに……。
いや、実際は油断していた。何故ならオジマンディアスは、ギルガメッシュは彼女を殺すことは無いとどこがで思ってしまっていた。

こんなこと、一度もなかった。彼が直接、自分に手を下すことは覚えている限り一度ですらない。
全くの予想外。全くの想定外。
渾沌である彼の行動原理など、よむこともできまい。

ああ、でも、そうか。

彼にとっては所詮、私は過去の一人のマスター。
彼にとって、私は彼の財であり彼の所有物。
彼は裁定者。裁定するもの。私はその対象なるもの。

それならば……ああ、そうだな。こんなこともありえる。
ならばこれは、神王――オジマンディアス――とそのマスター――ディーア――の完全たる油断だ。


宝具に貫かれ後方へ飛ばされたディーア。
飛ばされた先で地べたや建造物が崩れ、土埃が起こる。そのせいで姿は見えない。さらに追い打ちをかけるようにギルガメッシュはもう3つの宝具を放つのだ。

さすがのオジマンディアスも肝を冷やす。わずかながら額に冷汗すら掻いた。
今すぐにでもマスターの元へ向かい安否を確認したいが、目の前に対峙するのは英雄王。その力は尋常ではない。此度の聖杯戦争で最強ともいえる英霊だ。
オジマンディアスもギルガメッシュに匹敵、互角とまで言える強力な英霊だが、オジマンディアスも気を抜けば足元をすくわれる。当然だ。ゆえに、オジマンディアスは目の前のサーヴァントを見据えた。

魔術回路は繋がっている。それは、ディーアが生きている証拠だ。


「貴様……最古の王! ウルクの王よ!! なにゆえ余のマスターを狙った!! 貴様、あの娘は我がものだと豪語していたではないか」


古代エジプトで支配者である王を示す杖――ヘカ――で指させば、ギルガメッシュは喉の奥でくつくつと笑う。


「なにを言うかと思えば、エジプトの神王よ。無論、あれは我の所有物だ。よって……」


再度、ギルガメッシュは片手をあげる。その背後には無数の宝具が展開される。
オジマンディアスは警戒し、目を細めた。太陽の瞳に映るは、笑みを含んだ唇。


「我の財をどう扱おうと、我の勝手であろう?」


ウルクの王は遥か昔、賢王と称えられたらしい。しかしその過去、全盛期時代は暴君として恐れられたらしい。
英霊というのはその者の最盛期の姿で現界される。

なるほど。これはまさに、暴君のたぐいである。

理屈はかなっている。理解もできる。
だが、あれはもはや貴様だけの物・・・・・・ではない。


「ッ貴様――――!!」


燃え上がる炎をあらわにした太陽の眼が、天を仰ぎ高笑いをするヘビの真っ赤な眼を、刺す様に睨みつけた。

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