やけに静まり返った空間。まるで人ひとりすら居ないみたいだ。
早いリズムで地べたを蹴る音が響く。
灯火が上がった場所を目指して走っていた。まさに全力疾走。その名が合うほどに。

ふと、傍らの空間が揺らいだ。
どこからともなく現れた金色の粒子が控えめにきらめく。
同時に、あの低い声が響く。


「余の宝具、『闇夜の太陽船メセケテット』で向かえば一瞬であったぞ」

「アレは早いが目立つ。足止めをされるわけにはいかない。それに……何が起こるかわからない。充分、魔力をためていて。ライダー」

「まったく……」


そんな口ぶりだが、かすかに笑んでいたように思える。

それ以降オジマンディアスは何も語らなかった。
傍らの空間が透明の炎のように揺らぐことも。不思議な金色の粒子が散ることも。

たった一人の、地上を駆ける足音が響くだけ。走る。走り続ける。
長い間走り続けていたせいで、息が切れてしまった。足を止め、膝に手をついて息継ぎを繰り返す。
顔をあげれば、足を止めた場所は渡橋だった。あんなに離れた拠点から、此処まで来たらしい。

辺りを見渡す。続いている橋。
だがいつもと同じ橋ではない。地面が抉れている。戦った跡が見られるのだ。だが誰もいない。
アーチャーもライダーも。そこにはいなかった。

黙ったまま、戦いの痕跡を見つめた。
此処には誰もいない。なら……。

ディーアは再び足を進めた。再び走る。
この先にあるのだ。待ち望んでいたものが。汚染され、汚れてしまった、人の手には過ぎてしまった、あの大聖杯が。


「遅かったではないか。我を待たせるとは、貴様も相変わらずよなあ。ディーア」


足を止めた。
薄い笑みを浮かべ前に立ちはだかったのは、黄金の鎧をまとった者――ギルガメッシュ。

ディーアは片足だけ一歩背後へ下げた。此処にギルガメッシュがいることに、少なからず驚いたのだ。
今までに一度もこんなことは無かったから。
ギルガメッシュが立ちはだかるのなら、警戒するに越したことは無い。霊体化していたオジマンディアスは黄金の粒子から身体を構築し、ディーアの傍らに現界した。


「……どうして……ここにいるの……?」


ピリピリとした空気が流れた。
口の中が乾く。目の前の人から目を逸らせない。

ギルガメッシュがフッと笑む。
大きな黄金の耳飾りが揺れ、カランと鳴り響く。静寂の中で鳴るそれは、酷く響いたように感じた。


「なに。貴様にこの先をいかれては少々困るのでな。なにせ――」


その言葉の続きを知っている。
誰よりも愉悦に浸る貴方。愉悦に笑う貴方。いったいどれだけ貴方に振り回され、貴方の言葉に耳を傾けていたことか。
いったいどれだけ、付き合いが長い事か。


「これからが面白いのでなあ。この世界・・・・は」


息をのむ時間もなく。
目を見張る時間もなく。
次の瞬間には、ディーアの身体は遠方へ投げられていた。

25





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -