「――幕切れは興醒めだったな」


気が付けば、周囲の景色はアイリスフィールの城の中庭に戻っていた。自分達が居た位置も元に戻っていた。再び静寂が訪れ、イスカンダルだけは平然と、まだ残っていた酒を一気に飲み干した。誰もが口を閉ざしていたが、アーチャーだけは違った。


「成程な。いかに雑種ばかりでも、あれだけの数を束ねれば、王と息巻くようにもなるか・・・・・・ライダー、やはりお前という奴は目障りだ」

「言っておれ。どのみち余と貴様とは直々に決着をつける羽目になろうて。貴様ともな、ファラオよ。お互い、言いたいところも言い尽くしたよな? 今宵はこの辺でお開きとしようか」

「フン、しけた宴であったな。だが、まあ良い。余も貴様らとの決着を楽しみとしておこう」


イスカンダルはアーチャーとオジマンディアスの言葉を笑って流し、立ち上がった。だが、セイバーが黙っていなかった。


「待てライダー、私はまだ――」

「貴様はもう黙っとけ。今宵は王が語らう宴であった。だがセイバー、余はもう貴様を王とは認めぬ」

「あくまで私を愚弄し続けるか? ライダー」

イスカンダルはもうセイバーと言葉を交わす気はない様だった。無言で剣を抜き、夜空を斬り払えば、雷鳴と共に戦車が現れた。

「さあ坊主、引き上げるぞ」ウェイバーは、心ここにあらずだった。あれだけの宝具を目にすれば、無理もない話だ。特にウェイバーは、自身が召喚したサーヴァントの実力を目の当たりにしたのだ。


「おいこら、坊主?」

「――え? ああ、うん……」


再び声をかけられ、我に返ったウェイバーは咄嗟に頷き、イスカンダルに促されるままチャリオットに乗り込んだ。それを見計らって、イスカンダルはセイバーを一瞥して静かに告げた。


「なあ小娘よ。いい加減にその痛ましい夢から醒めろ。さもなくば貴様は、いずれ英雄として最低限の誇りさえも見失う羽目になる。貴様の語る『王』という夢は、いわばそういう類の呪いだ」

「いいや、私は――ッ」


セイバーの返答を聞こうともせず、イスカンダルは戦車に乗り込み、夜の空へと飛び立った。セイバーの心に口惜しさを感じたのなら、それは順当な感情であろう。しかし、セイバーの心の内にはどうしようもない焦りが生じていた。

「用は済んだ」カンッ、と携えた杖で床を叩く。それと同時に現れたのは、オジマンディアスの船だ。


「白けた宴となったが、貴様の話はなかなか面白かったぞ、黄金の」

「フン、言うではないか、太陽の」


二人は口端を上げた。オジマンディアスは真直ぐ船へと向かていいく。そのあとを付いて行くように、控えめにしてディーアも足を向けた。「貴様も、せいぜい足掻くがいい」すれ違いざま、アーチャーはそう言ってディーアを笑った。ディーアは一瞬目を細め、視線を前に向けて船に乗り込む。


「待て、エジプトの王よ! 貴様にはまだ聞きたいことが――ッ!」


8騎目のサーヴァント。介入者。そして、聖杯について。
イスカンダルの一件を引き摺って焦りを見せ、引き留めようとするセイバーを、オジマンディアスは船から見下ろした。その瞳は冷たく、射貫くようだった。


「――勇者たらぬ」


太陽船は、一瞬にして姿を消した。

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