突如として感じた殺意。セイバーから発されたものではない。ディーアだけではなく、それはウェイバーとアイリスフィールもすぐに察したに違いない。

そして、薔薇の咲き誇る中庭に、髑髏の仮面が出現する。それは続々と増えていき、いつの間にかディーア達5人は、漆黒のローブを身に纏った大量のサーヴァント――アサシンに包囲されていた。異常な人数だ。

サーヴァントに包囲され、セイバー、イスカンダル、オジマンディアスは警戒を示し、そのウェイバーとアイリスフィールも自分のサーヴァントの下へ駆け寄った。ディーアは駆け寄ることは無かったが、向けられた視線に「来い」と言われ、すぐさまオジマンディアスの下へ駆けつけた。


「・・・・・・これは貴様の計らいか? 金ピカ」

「さてな。雑種の考える事など、いちいち知った事ではない」


イスカンダルの問に、アーチャーは肩を竦めた。「貴様はどう思う、ディーア?」そしてアーチャーは愉し気な視線を、あえてディーアに向け、問いかけた。応えることはしなかった。

「む、無茶苦茶だ! どういう事だよ!? なんでアサシンばっかり、次から次へと・・・・・・大体、どんなサーヴァントでも、一つのクラスに一体分しか枠はないはずだろ!?」慌てふためくウェイバーに、アサシン達は嘲るかの様に、次々と笑いを零していく。「左様。我らは群にして個のサーヴァント。されど個にして群の影」

これは規格外のサーヴァントなのだろう。アサシンの真名、暗殺者『ハサン・サッバーハ』。単一の肉体の内に、分裂した人格が存在し、それぞれ固有の身体を備えて実体化する事が可能な能力を持つ。

「・・・・・・ラ、ライダー、なあ、おい・・・・・・」不安気な顔でウェイバーが己のサーヴァントに呟くも、イスカンダルは一切動じていない。

「こらこら坊主、そう狼狽えるでない。宴の客を遇する度量でも、王の器は問われるのだぞ」

「あれが客に見えるってのかぁ!?」


焦りと怒りを露わにするウェイバーに、イスカンダルは苦笑すれば、包囲するアサシンに向かって呼び掛けた。


「なあ皆の衆、いい加減、その剣呑な鬼気を放ちまくるのは控えてくれんか? 見ての通り、連れが落ち着かなくて困る」


イスカンダルの言葉に、オジマンディアスやセイバーも、そして今まで余裕綽々だったアーチャーも、流石に怪訝な顔をした。


「あんな奴儕までも宴に迎え入れるのか? 征服王」

「当然だ。王の言葉は万民に向けて発するもの。わざわざ傾聴しに来た者ならば、敵も味方もありはせぬ」


イスカンダルは平然とそう言うと、樽のワインを汲んで、柄杓を掲げた。


「さあ、遠慮はいらぬ。共に語ろうという者は、ここに来て杯を取れ。この酒は貴様らの血と共にある」


しかし、当然ながらアサシンは、イスカンダルの言う事など聞く耳も持たなかった。イスカンダルが掲げた柄杓に、一人のアサシンが投げた短刀が走る。柄杓は寸断され、汲まれたワインはイスカンダルの肩と地面を汚した。アサシンは次々に嘲笑う。


「・・・・・・余の言葉、聞き違えたとは言わさんぞ?」


イスカンダルの声色が一瞬にして変わる。


「『この酒は貴様らの血』と言った筈――そうか。敢えて地べたにぶち撒けたいというならば、是非もない」


刹那、熱い風が吹き付けた。砂混じりのそれは、まるで砂漠を舞う風の様で、有り得ない現象に、アイリスフィールはただ狼狽えた。マスターであるウェイバーも困惑を隠せずにいた。


「セイバー、アーチャー、そしてファラオよ。これが宴の最後の問だ。そも、王とは孤高なるや否や?」


いつの間にか、イスカンダルは紅のマントを靡かせ、英霊としての装束に変わっていた。イスカンダルの問に、アーチャーは無言で失笑を浮かべる。オジマンディアスはも同様、無言で瞼を下ろす。そして、セイバーは躊躇う事なく口にした。


「王たらば・・・・・・孤高であるしかない」


三者の答えにイスカンダルは笑い声をあげた。それに呼応するかの様に、熱風が強くなる。


「ダメだな! 全くもって分かっておらん! そんな貴様らには、やはり余が今ここで、真の王たる者の姿を見せつけてやらねばなるまいて!」


それは一瞬の出来事だった。
気が付くと、夜の城の中庭ではなく、灼熱の太陽が照り付ける、見た事もない広大な砂漠にいた。世界は一瞬にして変容した。

ウェイバーやアイリスフィールは、この幻影が奇跡だと、一瞬にして理解した。

「固有結界」今まで黙っていたディーアが呟く。「なるほど。これが征服王の宝具か」傍らに居たその声に頷き、フッとオジマンディアスは笑みを見せた。

「そんな馬鹿な。心象風景の具現化だなんて・・・・・・あなた、魔術師でもないのに!?」驚きを露わにするアイリスフィールに、イスカンダルは笑みを浮かべながら告げた。「勿論違う。余一人で出来る事ではないさ。これはかつて、我が軍勢が駆け抜けた大地。余と苦楽を共にした勇者達が、等しく心に焼き付けた景色だ」


気付けば、位置までも変わっていた。アサシンは荒野の端に追いやられ、イスカンダルを挟んで、そのほかは後方に退避させられていた。そして、突如としてイスカンダルの周りに、隊を組む騎兵の姿が徐々に再現されていった。


「この世界、この景観を形に出来るのは、これが『我ら全員』の心象であるからさ」


騎兵は瞬く間に増えていく。それに答える様に、ウェイバーは呆然と呟いた。「こいつら・・・・・・一騎一騎がサーヴァントだ・・・・・・」


「見よ! 我が無双の軍勢を! 肉体は滅び、その魂は英霊として『世界』に召し上げられて、それでもなお余に忠義する伝説の勇者達。時空を越えて我が召喚に応じる永遠の朋友達。彼らとの絆こそが我が至宝! 我が王道! イスカンダルたる余が誇る最終宝具――『王の軍勢アイオニオン・ヘタイロイ』なり!!」


ウェイバーは理解した。これがイスカンダルの切り札で、ランクEXの対軍宝具、独立サーヴァントの連続召喚である事を。

「久しいな、相棒」イスカンダルの元に、乗り手のいない馬が進み出る。イスカンダルはその馬の首を腕で抱いた。その馬は伝説の名馬ブケファラスであり、『彼女』もまた、英霊の格にあった。


「王とは、誰よりも鮮烈に生き、諸人を魅せる姿を指す言葉!」


イスカンダルはブケファラスの背に跨り、大声で叫んだ。隊列を組んで並ぶ騎兵達が、応じるかの様に一斉に盾を鳴らす。


「全ての勇者の羨望を束ね、その道標として立つ者こそが、王。故に――王は孤高にあらず。その偉志は、全ての臣民の志の総算たるが故に!」

「「然り! 然り! 然り!」」


斉唱する英霊達の声。イスカンダルの『王の軍勢』は、アサシンとは比べ物にならない程の圧倒的な数だった。


「さて、では始めるかアサシンよ。見ての通り、我らが具像化した戦場は平野。生憎だが、数で勝るこちらに地の利はあるぞ?」


イスカンダルの言う通り、勝敗は決まったも同然だった。それは対峙するアサシンが一番分かっている事だろう。逃走する者もいれば、立ち尽くす者もいた。


「蹂躙せよ! AAAALaLaLaLaLaLaie!!」


ウェイバーも、そしてアイリスフィールやセイバーも、王の軍勢に一方的に殺されるアサシンの群れを、ただただ無言で見つめるしかなかった。

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