意識をはっきりとさせた後、オジマンディアスの元へ向かった。
部屋へ入れば、彼は玉座に座ってディーアを待っていた。玉座にいるオジマンディアスと一定の距離を取り、眼前に立つ。


「……では話せ。貴様の全てを余に語るがいい」

「ではまず、あのアーチャーから。彼は以前の聖杯戦争で契約したサーヴァントです」


最初に疑問をぶつけていたアーチャーから語りだした。
ディーアがそういえば、オジマンディアスは少し驚いた様子で続けた。


「ほう? 貴様は以前の聖杯戦争にも参加していたと?」

「ええ。何十回、何百回、何千回と、私は聖杯戦争に参加している・・・・・・」

「・・・・・・」


瞼を閉じる。そうすると、脳裏に過去の記憶がよみがえる。鮮明に。濃厚に。
数えるのを諦めた、というのは事実だ。しかし、数えられなくなったというのが正しい。
一体自分は何度繰り返しているのか、途中で見失ってしまったからだ。もう、酷く昔の事は、覚えてすらもいない。

瞼をあげ、玉座に君臨する彼を見つめた。


「ファらをよ、私は魔術師ではない。貴方と同じく、元はサーヴァントとしてこの世界に降り立った者」


ピクリと指を動かし、太陽の瞳を細めた。
じっとディーアを見つめながら足を組みなおし、肘を立て頭を支える。


「・・・・・・許す、続けよ」


オジマンディアスの合図で、ディーアは長々と語りだす。

ここではない世界。違う道を歩んだ、数多に存在する並行世界で、私はサーヴァントとして呼び出された。そこで行われた聖杯戦争で私は六騎のサーヴァントを殺し、そして、勝利を収めた。

聖杯を手にし、我がマスターに促されるがまま、それを口にした。その瞬間――あらゆる願いを叶える願望機は、粉々に砕け散った。

願望機により「今を生きるもの」となった。「今を生きる者」となったことで「過去」が失われた。過去を失ったことで「どこにでも存在し、何処にも存在しない者」となった。それと同時に、人間とは程遠い「不老不死」と近しいモノを手に入れてしまった。

ゆえに、あらゆる世界に、あらゆる時代に存在する『私』は、数多に存在する世界に干渉できた。


「聖杯に歪められたか・・・・・・」


まるで「哀れだな」と続くような言い方だ。
見方によれば哀れだろう。だが、それでもかまわない。

ラブラドライトの瞳が決意に燃え、信念に昂ぶり、鋭く光った。


「聖杯は、人の世にはいらない。あれは人を狂わし、やがて世界を喰らうだろう。だから私は、聖杯戦争を終わらせる。聖杯を破壊する。それが、世界の救済につながると信じて――――」


太陽の瞳が見定めるように見つめる。
ラブラドライトの瞳が訴えるように見つめる。

互いに互いを見つめた。
やがてオジマンディアスは彼女に何かを見出し、口端をあげ、笑みを浮かべる。
そして。


「フフッ、フフフハハハハハハ! 良い、許すッ! その願い、このオジマンディアスが聞き届けた! 貴様の願いを赦し、その信念を認めよう。余の興味を引くとは・・・・・・ 許す、ちこう寄れ。貴様の顔が見たい」


先程の凛々しい表情とは打って変わって、ディーアは驚いて目を丸くした。

ディーアはオジマンディアスに戸惑いながら、おそるおそる彼へと近寄る。玉座の前まで来ると、座っている彼を見下ろさないように膝を折り、足下にしゃがむ。
そうしてオジマンディアスを見上げた。
オジマンディアスはディーアの顎を片手ですくい、上を向かせる。


「世界を救わんとする者よ。貴様は救世主でも、聖人でもない。だが、王者の気風ではないが、貴様には何かの気風があるようだ。少しは余も見直したぞ」


一度は目を伏せたが、見直したと告げられると驚いてまたオジマンディアスを見た。
感謝を述べたほうが良いのだろうか、と思い口を開こうとすると、顎をもっていた手が頬へと移り、親指で目元を撫でられる。


「……いい眼をしている。その瞳で前を見据えよ。その先に、貴様が望んだ未来世界が待っている――」


優しい声と、優しい笑みだった。
慈愛に満ちたその太陽の如く瞳を見て、少しばかり、肩の荷が落ちた気がした。

07





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