倉庫街。
ランサーとセイバーが争っていたさなかに、正規のライダーである征服王イスカンダルが乗り込んだ。
そして、隠れ潜むものたちにライダーが言い放つ。


「セイバー、それにランサーよ。うぬらの真っ向切っての競い合い、誠に見事であった。あれほどに清澄な剣戟を響かせては、惹かれて出て来た英霊が、よもや余一人という事はあるまいて」


ライダーはそう言うと、この闇夜に潜んでいるであろうサーヴァントに向かって声を張り上げた。


「情けない、情けないのう! 冬木に集った英霊豪傑どもよ。このセイバーとランサーが見せ付けた気概に、何も感じる所がないと抜かすか? 誇るべき真名を持ち合わせておきながら、コソコソと覗き見に徹するというのなら、腰抜けだわな。英霊が効いて呆れるわなぁ。んん!?」


言いたい事はまだあるらしい。
ライダーは挑発的な視線を一面の夜空へ投げ付けた。


「聖杯に招かれし英霊は、今! 此処に集うがいい。なおも顔見せを怖じる様な臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!!」


ライダーがそう叫んだのち、直後、突然、上空に黄金の光が現れた。
間違いなく、ライダーの挑発に乗ったサーヴァントだ。その人物は、街灯の頂上に姿を現し――現界した。

黄金の甲冑を身に纏う、豪華絢爛さ。

突如現れたサーヴァントは、口を開くや否や、ライダーを超えると言っても過言ではない威圧感――いや、それとは異なる侮蔑を含んだ言い回しで、不快感を露にした。


「我を差し置いて“王”を称する不埒者が、一夜のうちに二匹も湧くとはな」


ライダーはそのサーヴァント、アーチャーの言葉を気にせんとばかりに、顎の下を掻いて困惑の表情で呟いた。


「難癖付けられたところでなぁ……イスカンダルたる余は、世に知れ渡る征服王に他ならぬのだが」

「たわけ。真の王たる英雄は、天上天下に我ただ独り。後は有象無象の雑種にすぎん」

「そこまで言うんなら、まずは名乗りを上げたらどうだ? 貴様も王たる者ならば、まさか己の威名を憚りはすまい?」


すると、アーチャーは紅い瞳に怒りを漂わせ、ライダーを見下ろし睨み付けた。


「問を投げるか? 雑種風情が、王たるこの我に向けて? 我が拝謁の栄に浴してなお、この面貌を見知らぬと申すなら、そんな蒙昧は生かしておく価値すらない!」


アーチャーがそう言い放つと、背後の黄金の空間が揺らめき、彼の背後左右から剣と槍が出現した。
その剣や槍は彼が見下ろすライダーに刃が向かれていた。その場にいたほぼ全員が息をのんだ。アーチャーに誰もが警戒している。

その、すぐ直後である――

太陽の如く輝くそれは現れた。
上空に現れしそれに、その場にいた誰もが目を向けた。空に浮かぶ船の先頭に立つのは、サーヴァントの一人。


「フハハハハハ! 余を差し置いて王を語るか! 愚か者め。余こそが王の中の王! ファラオである!」


高らかに宣言するのは、オジマンディアス。

みな唖然として見上げた。突如現れたサーヴァント。キャスターでもなければバーサーカーでもない。
船に乗るサーヴァント。いるはずもない、二人目のライダー。
マスターもサーヴァントも目を丸くする中、たった一人だけが赤い瞳を細め「ほう……?」と呟く。無論、聞こえる筈もなく。

船に同席するディーアはオジマンディアスの背後で頭を抱えていた。
その手には、確かな令呪が刻まれている。


「ほう、余と同じライダーか」

「バッカ!! どういうことだよ! なんでライダーが二人もいるんだよ!」

「そんなもん、余にいわれてもなあ……」


そうなるのも仕方のない事。
唖然とする中、目を見開いてアイリスフィールが答えを出す。


「まさか、八人目のサーヴァント!?」


答えを出すのは早い。
聖杯に召喚されるのはそれぞれ七騎であり、それぞれクラスも異なる。故に、クラスがかぶるとなると、存在しえない八人目となる。
アイリスフィールに続け、セイバーが見えない剣を向けながら叫ぶ。


「貴様、何者だ。その船、見たところ貴様はライダーのようだが」

「余に刃を向けるか。余は寛大ゆえ、一度は許そう。確かに余はライダーとして現界したが。余が存在しえぬ八騎めなのは、余の召喚者がイレギュラーであるがゆえだ」


当然、視線は背後にあるディーアに移る。手の甲には確かな令呪。認めざるを得ない。
謎の八人目と認識した彼ら。
そして正規のライダーが上空に問いかけた。


「貴様、ファラオと言ったな。であれば、古代エジプトの王か」

「いかにも! さあ! 空を仰げ、地を這え。お前の見上げる太陽の輝きが余である!」


此処までされては真名の秘匿は難しい。
最初からオジマンディアスは隠そうとは思ってないだろうが、ディーアは横目でやりとりを見ながら小さく息を吐きだした。

ディーアが気にしているのは、あるサーヴァント。この場にはある男がいる。
ディーアはそれを気にしていたのだ。


「よもや、そのような輩を召喚するとはなあ。なあ、ディーア」

「アーチャー……」


電灯の上に立つアーチャーが、こちらを確かにとらえた。
アーチャーの言葉に反応したディーアが呟くと、オジマンディアスはそれを背中越しにみつめた。
ディーアを見た後、視線はアーチャーに向く。


「良いぞ、許す。この場で我の名を呼ぶことを許す」


冷汗が流れる。
あの蛇のように鋭い赤い目が、ディーアを捉えて、笑みを浮かべている。


「貴様、あのアーチャーを知っているのか?」

「なんだ、貴様。そやつからまだ聞いていないのか」


オジマンディアスが問いかけてくる。応える間もなく、嘲るように笑ったアーチャーがオジマンディアスに言い放つ。
アーチャーの背後に展開された数々の刃物は、オジマンディアスとディーアに向いた。


「今まではどこぞの雑種と契約しても放っておいたが、今回ばかりは我も甘くはないぞ」


ディーアは気まずそうにアーチャーから視線を逸らした。その表情から、実に困っているのだと伺える。
アーチャーやディーア以外の人達には、二人の会話の意図を見いだせない。それは彼女のサーヴァントであるオジマンディアスも同様だ。
オジマンディアスは興味を引いたように、その太陽の瞳を光らせた。


「そこな太陽の! 貴様のマスターを我に渡せ。貴様には、そやつの価値などわからんであろう」


挑発的な笑みと、言葉。
ディーアは、自分はそちらにはいかないと伝えようとして「アーチャー」と呼びかけようとした。
だがそれは、独り言のように呟いたオジマンディアスの言葉によって奪われた。


「ふん……貴様、いくらか余の興味を引いたぞ」


驚いて、今までアーチャーに向けていた視線をオジマンディアスに向けた。オジマンディアスは笑みを浮かべている。
呆気に取られていた。

呆気に取られていると、いきなり強く手首を掴まれ、グイツと引っ張られる。
突然のことに対応できず、体をよろけさせながらなんとかバランスをとる。


「黄金の! これは余の召喚者、余のマスターである。ゆえに、これは余のモノである!」

「ラ、ライダー……?」


正直に、頭が追い付いていない。
ただ戸惑ったまま、宣言するオジマンディアスを見上げる。そしてアーチャーに視線を戻せば、肩を揺らす。
アーチャーの顔は不機嫌そのもの。鋭く光る赤い目が突き刺さる。


「貴様……我に逆らうか。不敬者がッ!!」

「ファラオの神威を見るがいい!!」


アーチャーの宝具、王の財宝ゲート・オブ・バビロンをさらに展開させる。彼の数多な宝具が今にもこちらへ飛んできそうだ。
オジマンディアスの船も、より一層まばゆい光を放つ。

今にも始まりそうな、オジマンディアスとアーチャーの戦闘。
こんな大規模な宝具もちが二人ぶつかれば、近くにいては堪ったものじゃない。

宝具が放たれる。
その直前である。何処からともなく、とてつもない魔力が吹き荒れた。

04





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -