静寂だったのは夜だけではなく、彼らもだ。
ディーアは何かを思いながら壁に背を預け、窓を眺めていた。一方オジマンディアスは玉座に座ったまま、瞼を閉じている。
そして、太陽の瞳が開かれる。
「サーヴァントがいるようだな」
ディーアは壁に背を預けたまま、声を発したオジマンディアスに向き直り、肯定した。
「倉庫街ね。今のところはセイバーとランサーだけのようだけど……」
「ほう?」
ディーアが答えた言葉に、オジマンディアスは目を細めた。
サーヴァントには特有の気配がある。それは同じくサーヴァントも魔術師にも感じ取れるが、召喚クラスまでは無理だ。
それを見事言ったディーアは、目をそらして肩をすくめた。
オジマンディアスはしばらく目をそらしたディーアを捉えたが、瞼を下ろした。
「まあ良い。如何なる武勇を誇る英雄も、神秘を行使する魔術師も、余の興味の対象とはならんが。いつまでも引きこもってるだけでは、余も退屈だ」
オジマンディアスはそう言うと玉座から腰を上げ、外へ出て行こうとする。
倉庫街へ向かおうとしているのは明白だ。
ディーアは慌ててスタスタと先へ行ってしまうオジマンディアスを追いかける。捕まえたのは外へ出たところだった。
「待って、待ってください! ライダー!」
後ろから追いつけば、オジマンディアスが背中越しに頭だけを振り返させる。耳飾りが揺れた。
「良い、許す。申してみよ」と告げる。
「私たちの存在はまだ、聖堂協会にもマスターにも知られていない。イレギュラーである私たちが、不用意に姿を晒すのは――」
「貴様、ファラオたる余に鼠のよう息を潜めろと言うか。不敬であるぞ」
「……っ!」
声を低くして、鋭く光らせる瞳に圧倒され、ディーアは続ける言葉を失い押し黙った。
そんな彼女を見下ろす。
太陽の瞳は見透かすように告げた。
「貴様……何を視ている」
「え……」
ディーアは目を丸くして長身の彼を見上げた。
オジマンディアスの背後には月。彼からは、彼女の瞳に月が映っているのが見える。
不思議な瞳だ。色を変える灰色の瞳が、今は月のように青く鈍く光っていた。
オジマンディアスはふっと笑うと「まあ良い。貴様には少しばかり見どころがある。よって先ほどの不敬は許そう。寛大な余に感謝せよ」ディーアは目を丸くしたまま「感謝、します……ライダー……」と困惑しながら述べる。
オジマンディアスは続けて「良い、余をファラオと呼び崇めることを許す」と言う。
つまりそれはライダーではなくファラオと呼べと言っている。
ディーアは了解するとともに、他のサーヴァントやマスターがいるときはライダーと呼ばせてもらうと告げる。
オジマンディアスが片手に携えた杖で地を叩いた。
突如現れたのは、光り。輝き。光輝。ライダーの宝具――闇夜の太陽船メセケテット。
太陽神ラーの駆る船。箱舟である。
こんなものは見たこともない。
唖然としてオジマンディアスを見上げた。
「余の輝きは今や太陽をさえ超える! 貴様にはこの光輝を見つめる栄光を与えよう。ファラオたる余の力、その眼に焼きつけるがいい」
余や身に輝くそれは、まさに太陽であった。