太陽が地を照らす時刻。
昨夜の陰鬱な空気とは違い、とても晴れ晴れとしていた。


「わぁ……! さすがカルナ! 似合ってる、すごく似合ってるわ!!」

「そうか? だが、お前がそう言うのならそうなのだろう」


一夜が明けた後、ディーアやカルナは楽し気な気持ちで街に出ていた。
ついこの間、ライダーが現代服で外に出ようとしていた時の事。カルナも現代服を着れば一緒に外を出歩ける、と思い至ったディーアはさっそく今日この日に実行した。

服屋でカルナに似合いそうな服一式を見繕い、ほぼ一方的にそれをカルナに押し付けて着替えさせる。

カルナが来ている服は、一言でいえばホストっぽい服である。
黒っぽい灰色のズボンとジャケット。その中にはワインレッドのシャツ。そしてワンポイントに肩から白いストールをかけ、前で緩く縛る。

カルナがこういった現代服を着ているところを見たのは初めてで、とても新鮮だった。
いつも両手は黒で包まれているのに、今は白い肌を晒している。


「どう? 現代服は。どこか窮屈だったりしない?」

「いや、とくに問題ない。慣れないため違和感は感じるが……やはり、俺の時代とは違い快適だな」


自分が着ている服装を見ながら言う。
ディーアは楽しそうに「そっか」と笑んだ。


「ディーア、この後はどうする。どこか向かう場所はあるのか?」

「んー……そうね。ちょうど昼時だし、昼食でもとりましょうか」


何か食べたいものはないかと尋ねるが、返ってきた言葉は予想通り「特にない」
カルナは「俺にはどういったものがあるのか、わからないからな」と付け加える。
それもそうだろう。カルナが特定できる現代のものといったら、ディーアが食べているものか、またはロールケーキなどだろう。

ひとまず、二人は近くにあったカフェに入った。お洒落でちょっとした昼食に良い。三時には数々のケーキがあって、さぞ良いだろう。

カウンターへ行って、メニューを見ながら何を食べようかと、それは楽しそうに話していた。
だからそれを見て店員が微笑みながらこう聞いた。「ご兄妹、仲がよろしいのですね」と。


「兄妹……?」


そう言われて、カルナは目を丸くして聞き返した。
次にディーアとカルナがパチリと目を合わせ、瞬きをする。
店員は微笑んだままだ。


「いや、俺たちは……」

「ええ。素敵な兄様でしょう?」

「!?」


悪戯気に笑ってみせて、カルナの腕に絡んでみる。案の定、カルナはあまり見せない表情でビックリしている。
腕に絡む仕草は恋人のそれだが、仲睦まじい兄妹にも見える。

注文を済ませてから二人席に移動する。
注文の品はすぐに来た。それを美味しそうに口に含むと、カルナが口を開く。


「俺たちは、兄妹のように見えるのだろうか……」

「そうかもね。ほら、貴方と私の髪は同じ色だし……瞳は違うけど。まあ、そう見えても仕方がないんじゃない?」

「……」


そう言えば、カルナはあからさまにムッスリとした顔をした。
本当に、昔とは大違いなほど表情豊かになったものだ。


「あら、不満?」

「……? そんな顔をしてたか?」


無自覚だったらしい。
悪戯気に聞けば、小首を傾げて聞き返してくる。だからまたクスリと笑った。
一口、頼んだ注文の品を口に入れる。静かに「だが……」とカルナが言葉を漏らした。


「兄と言われるのは、こんな気持ちだったんだろうか」


照れくさそうに目を細めて、何処か嬉しそうに微笑むカルナ。
その表情は何処か子供めいても見えて。思わず感慨深く笑うカルナに言葉を失った。


「お前も知っているように、俺は生前、兄弟たちと争った。一度として兄弟だと思ったことは無かったが……きっと、兄弟として生きていたなら、そう呼ばれていたのかもしれないな」


インドの大英雄――カルナ。
『施しの英雄』と呼ばれ、何かを乞われたり頼まれた時に断らない事を信条とした聖人。
非常に高い能力を持ちながら、血の繋がった兄弟と敵対する悲劇を迎え、様々な呪いを受け、その真価を発揮する事なく命を落とした英雄――それがカルナである。

――それが彼である。

ディーアは少し目を伏せた。
それに気づいてか、それともただ単にか。


「そうか……兄か……」


カルナは微笑む。
幸せそうに。楽しそうに。嬉しそうに。
この穏やかな時間に包まれている今が、平和だった――



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