――聖杯戦争。

幾多の伝承において語られる、あらゆる願望を実現させるという『聖杯』の再現。
しかし、その聖杯が叶えるのはただ一人の人間の祈りのみである。

聖杯に選ばれた7人の魔術師に、聖杯が選んだ7騎のサーヴァントが与えられる。

一騎、騎士『セイバー』。
一騎、槍兵『ランサー』。
一騎、弓兵『アーチャー』。
一騎、騎兵『ライダー』。
一騎、魔術師『キャスター』。
一騎、暗殺者『アサシン』。
一騎、狂戦士『バーサーカー』。

マスターとなった魔術師は、この7つのクラスを被ったサーヴァント一人と契約し、自らが聖杯に相応しい事を証明しなければならない。つまり、マスターとなった者は、他のマスターを殺して自身こそ最強だと示さなければならないのだ。
聖杯を求める行いは、その全てが『聖杯戦争』と呼ばれている。

約200年前。
全ての魔術師の悲願たる、この世の全てを記録し、この世の全てを創造できるという神の座『根源の渦』へと到る試みを、実行に移した魔術師達がいた。
 
一家、アインツベルン。
一家、マキリ。
一家、遠坂。

彼らは『始まりの御三家』と呼ばれた。
以来、60年に一度の周期で、聖杯はかつて召喚された極東の地『冬木』に再来する。


以上が、ここ半年で手に入れたこの世界での聖杯戦争についてだ。既に聖杯はマスターを数名選び抜いた。

一人、衛宮切嗣
一人、遠坂時臣
一人、言峰綺礼
一人、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト

しかし、まだ空席が存在する。
かといっても、ディーアはその空席に座る気は一切ない。

あくまで自分はイレギュラーとして存在するのだ。
元からあった定めとも運命とも言える、『その線』改変するつもりはない。結果的には改変してしまうかもしれないが。
故に、ディーアはイレギュラーのマスターとして8騎目のサーヴァントを召喚する目論見なのだ。


この60年を周期に到来してくる冬木の聖杯戦争は、あと僅かで60年目を迎える。
そう――待ち望んだこの日が来るのだ。

それはつまり、この穏やかだった日々に終焉が来るという事。
聖杯戦争は極東の日本。此処はイギリス。

そのためディーアは此処を早々に経たなければならない。
ディーアは夕方ごろ、身を置いているウェイバーの家へと向かった。そして早くにも此処を去ることを伝えなければ。


「ウェイバー?」


しかし彼が見つからない。家にはいないみたいだ。
部屋をのぞいてみると彼にしては部屋が散らかっている。急いで外へ出たような痕跡だ。
そんなふうに家の中を歩き回っていると、リビングのテーブルに置かれた置手紙に気付く。
それを拾い上げ、丁寧な文字を目で追った。


【しばらく日本に行ってくる。】


短く端的な文だ。そう思う反面、嫌な方向に思考が運ぶ。
この時期に、魔術師が日本へ。そしてウェイバー・ベルベットはケイネスの生徒。小耳に何か挟んでもおかしくはない。


「……まさか……」


聖杯戦争に参加を――。
この可能性が一番あり得る。けれど止める義務もないし、参加は本人次第だ。口を挟むものではない。

ただ、敵として対峙しないことを祈るのみだ。

ディーアはそう胸を抱き、早々に日本へ向かった。


03




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