ポケモンSS | ナノ
蜘蛛


蜘蛛の巣に掛かった獲物は
身動きを封じられ、最後には

食べられてしまうの


「サトシ」

「………。」

いつから、何てもう覚えてない
気が付けば薄暗いこの部屋に俺はいて
まるで蜘蛛の巣に掛かった獲物の様に身動きも取れずにいた

「僕を無視するなんて酷いね?」

目の前にいる男は誰?
俺の知ってる彼はこんな事はしない
この男は彼の姿をした別人?

「…お前は誰だっ」

「誰だなんて、僕はシゲルだよ…サートシちゃん」

「…ヒッ!」

ピチャと音を立てながら自分の首を舐めてきた相手に
サトシは小さく悲鳴を上げながら体を動かして抵抗するが
体を動かす度にジャラジャラと聞こえる鎖の音は
抵抗しても逃場がないという証

「シゲルはこんな事しないっ」

「するさ」

「えっ…?」

「今までは君に嫌われないように、君に好かれるために優しい幼馴染みを演じていただけ…でももう、疲れたんだよ」

目を閉じれば浮かぶ自分の名を呼んで優しく微笑んでくれる彼の姿

けれど
今自分の目の前にいる男は誰?
本当に彼(シゲル)なの?

「嫌われるのが、離れられるのが怖かった、けど…閉じ込めて逃げられなくすればいいって気付いたんだ」

彼の姿で一体何を言ってるの?

「でもいっその事、孕ませてしまおうか?」

「…ゃだ…いやだっ…!!!」

「煩いよ」

彼のその言葉を最後に俺はそこで意識を手放した。



「おはようサトシ」

目が覚めて始めに見たものは
見慣れた幼馴染みの優しい笑顔

「シゲル…ッ!」

あれは悪い夢だったんだ
彼の笑顔を見た瞬間そう思いながらも
両手両足に繋がれた鎖と
下腹部に感じる痛みに
これが夢じゃなく現実だとすぐさま理解し

「…はは」

本来なら怒りや悲しみの感情をぶつけるこの状況の中
俺の中では
何の感情も沸き上がっては来なかった。

「あは…ぁはははははっ」

逆に
何も感じなくなった俺は
蜘蛛(彼)の巣で絡め取られた獲物。

生きるも死ぬも彼しだいなら
感情などいらない
死ぬのを待つだけの運命ならば

もういっその事
壊れテシマおウ

蜘蛛(彼)ももう
壊れてしまっているのだから。

俺は死ぬまで
彼の巣の上で弄ばれる哀れな獲物



(サトシ、サトシ、愛してる)


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