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空虚感


「サトシ…」

君のベッドに倒れ込む様に横になると
太陽の様な彼女の香りがベッドに微かに残っていて

それが無償に悲しくなって
涙が出た。

「…君がいないなら…僕が生きてる意味はないじゃないか…」

彼女の母が綺麗にしていたシーツも枕も
自分の涙やらシワやらできっと汚くなり、乱れていることだろう…。

だけど
そんな事よりも
この部屋の主である彼女がもういないとゆう事に

僕の心が一番乱れていた

「チャァ-…」

「っ来ないでくれ!!!」

「ピカ…チャァ-…」

「今…、今君を見たら僕はきっと君を殺してしまう」

彼女が一番の相棒なんだと
いつも傍に置き大切にしていたポケモン(ピカチュウ)
たとえ彼らが彼女にとって大切な存在でも

僕にとっては大切な人を僕から奪った憎き存在でしかない

きっと、彼女の部屋でなければ
殺していたかも知れない
そう思ってしまうほど
僕は彼女が居なくなって狂ってしまったんだと思う。

「君たちさえいなければ…君たちさえ弱くなければサトシはっ!!!」

こんな事を言っても
ポケモン達を責めても
彼女が帰ってくる訳じゃないのに
一度放たれた言葉は
そう簡単に終わることはなく

気が付けば泣き震えるピカチュウを抱いたお祖父様に殴られていて

「こんな事をしてサトシが悲しむと思わんのかっ!」

「サトシは悲しんだりしませんよ」

「なんじゃと?」

「死んだ人間が悲しむ訳がない」


悲痛に顔を歪めるオーキドを見つめながらそう言い放つと
オーキドは高く拳を振り上げていて
もう一度殴るのなら殴ればいい、と
静かに目を閉じるが
いくら待っても殴られる事はなかった。

「…お前さんの気持ちも痛いほどわかるからのぅ…だが、サトシの最後の言葉をお前さんは聞いてないのか?」

「僕が帰ってきたのは今日の朝です」

「そうじゃったか」

「サトシの最後の言葉って一体なんですかっ」

「…ポケモン達を嫌いにならないで、約束守れなくてゴメン、愛してる…と言っておったそうじゃ」

約束…それは自分の指と彼女の指にはめられていた指輪の事だろう
次に帰ってくるときはもう僕の傍から離れない、旅は終わりだ!
と言った彼女に
それなら帰ってきたら結婚しようと渡し
二人で誓いあった約束

「…君がいない世界で僕が生きていく意味は、何もない。」

生きる意味、目的は
彼女がいなくなった事で無くなってしまい

僕の心を埋めているものは
悲しみと絶望と憎しみと

彼女を失った『空虚感』


放った弾丸はそんな空虚感からの唯一の逃げ道。


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