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愛、犠牲


王子を殺しなさい。
そう言われて渡されたのは
一本のナイフ

王子を殺したら
その命で俺は人魚に戻れるし
泡になって死ぬなんて事はない

でも
王子を殺して生きたいと思うのなら
初めから
声を失った悲しみや、歩くたびに感じる足の痛みにも耐えることなくすぐにでも殺していた

(俺は殺せない…。)

手にしているナイフは
姉たちが自分の為にと綺麗な髪を差し出して魔女から貰った物だ

けれど
人魚姫は苦しみから解放されたいとは思わなかった。

(愛しい人を手にかけるなんてできない)

人魚姫はただ王子の傍にいて
王子と過ごしただけて幸せだった。
だから声が出せなくても
足の痛みにも耐えることが出来たのだ。

ただただ
王子と一緒にいたかっただけだから
だから人魚に戻るために王子を殺すとゆう考えは人魚姫にはなかった。

(ゴメンな、カスミ、ハルカ、ヒカリ)

ポロポロと頬を伝う涙は綺麗な真珠となり床へと転がり落ち
その数は彼女の悲しみの分だけ増えていった。

(俺は、愛する人を殺して生きたくなんてない)

両思いになれなくても
王子の隣には自分以外の女性がいても
傍にいて、名前を呼んで貰えるだけで幸せだった。

(大好き。)

「……サトシ?」

(バイバイ、シゲル)

愛には犠牲が付き物だ、と
人間になる前、魔女が悲しげにそう言ったのをナイフを胸に突き刺す瞬間にふと思い出した。

(…彼女も何かを犠牲にしたのだろうか)

「サトシ!!!サトシィイ!!!!」

(あぁ、でも…)

貴方(シゲル)が自分の為に流す涙を見て
嬉しいと思う自分は
本当に貴方(シゲル)を愛していたんだ。

愛には犠牲が付き物。
だけど
自分が本当に愛した人の為なら
なにを犠牲にしたって構わない

でも
貴方を悲しませた自分は許せなかった。

(愛してる、そしてゴメン。)

泡になって消えていく中で思っていたことは
死への恐怖じゃなく、貴方(シゲル)への罪悪感。

(どうか、お幸せに。)

そう願い人魚は海と1つになった。


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