flower



直江さんと高耶くんのお話



「ただいま戻りました」
チャイムを押した後、自ら鍵を開けて入ってから奥にいる高耶に声をかける。
それがいつもの習慣。
今日もそうすると、リビングに入る前に高耶が出迎えに来た。
「おう、おかえり」
はにかむような笑みを見るたびに、直江は幸せを感じる。
昔からは考えられないような、優しい時間。

「って、また薔薇買ってきたのかよ」
直江が抱えている薔薇に、高耶が呆れたような声をかける。
「はい」
そう言って、高耶に手渡す。
Tシャツにジーンズ、機能的なエプロン姿の高耶が薔薇の花束を抱えていると違和感がある。
それでも、直江は満足そうに頷いた。

「やっぱり高耶さんには真紅の薔薇が1番似合いますね」
「俺よりお前の方が似合ってると思うけどな。それ抱えてるお前に誘われたい女がわんさかいるだろ」
「おや」
直江はエプロンの紐が巻かれた細い腰に腕を回し、「妬いてくれるなんて、嬉しいですね」ととろけそうな声で囁く。
高耶はその手をペシリと叩き、バーカと一言言い残して、キッチンに戻っていった。
チラッと見えた高耶の顔が心なしか赤くなっていて、それがまた直江を嬉しくさせる。
「今日は、ぶり大根。冷める前に早く着替えて来い」
高耶の言葉に、直江は従い寝室にあるクローゼットへ向かった。
手早くラフな服に着替えてダイニングに戻ると、食卓は完璧に整えられていて、後は直江が席に座るだけ。
直江はすぐに自分の席に座ると、高耶が手を合わせて「いただきます」を言う。
直江もそれに倣い、挨拶を済ませると食べ始めた。

「薔薇、また分けて飾ってくれたんですね」
「おう。後は寝室だけ」

大量の薔薇が1箇所にあると、その華やかな芳香でむせてしまいそうになるので、高耶は分けて生ける事にしている。
玄関、寝室、客間、洗面所の4箇所。「でも、本当になんでいつも薔薇なんだよ」
「他にお好きな花があるんですか?」
「いや、俺は花の名前なんかろくに知らねえし」
「もちろん、あなたに1番似合うというのが1番の理由です。後は」
「後は?」
高耶が口をもぐもぐ動かしながら聞くと「私はあなたにふさわしい」と答えた。

「あ?」
「花言葉ですよ」
高耶は呆れたように「花言葉なんてもっと知らねえよ」とポツリ呟いた。

「いつでも、あなたにふさわしい自分でいられるように、そうやって自分を磨くためにも」
直江が笑いながら言うと、高耶は顔を薔薇のように染めて「いい」と素っ気なく言う。

「今のままで充分だ」

小さな小さな呟きが、微かに直江にも聞こえた。

そんな事を思って、薔薇を選んでいたなんて気付きもしなかった。
高耶は今更ながら、直江の想像以上に深い愛情を感じ照れくさくなる。
そんな空気を吹き飛ばすかのように、箸を懸命に動かす。
直江もこれ以上高耶を恥ずかしがらせる事ないよう、食事に集中した。

「最近和食が多いですね。このぶり大根も美味しいです」
「俺よりもずっと年寄りのお前に気を遣ってやってんだよ」
意地悪そうに笑いながら言う高耶に、直江はニヤリと笑って、口で勝てた試しもないくせにと、直江はいつもより厭らしほど甘い声で囁く。

「年寄り、ですか。今晩はいつも以上にあなたに悦んでもらえるように頑張りますね」

高耶の顔は赤くなったり、青くなったり百面相のようだ。
部屋中、薔薇の華やかな香りよりも強く、淫靡で甘い香りが2人を包み込んだ。





Happy end






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