flower



成瀬さんと和希さんのお話



家に帰ると、おかえりと言ってくれる人がいる。
仲が悪い訳ではないが、一緒にいる時間が極端に少ない家族だった。
だから初めは、成瀬がくれる家庭というものに慣れなくて、もしかしたら嫌な思いをさせたかも知れないなんて思っていたけれど。
そういう和希が慣れてくれるのが嬉しいと、辛抱強く待っていてくれた人。
和希だって、そんな大切な人に何かしてあげたいと強く思っている。
この前、マンションに住む友人達と話していて、自分も花をプレゼントしてみようかという気になった。

学生の頃から、成瀬にはクリスマスやら誕生日やら何かにつけて花をプレゼントされてきた。
気恥ずかしくて素直に礼も言えなかったけど、仕事で疲れた時そんな花に癒されてきた。

さて、成瀬にはどんな花を贈ろうか。
フラワーショップには、たくさんの色と香りの違う花々が並んでいる。
成瀬は外見も性格も華やかだし、それに見合うものが良い。
そう思いながら目に入ったのは、白いカトレヤだった。
自分でももっと赤とか黄色とか派手なものをと思っていたのに、何故かそれだと即決した。
それだけではと思って周りを見渡して、次に目に入ったの
は白くて小さな可愛い花。

「あの、これは…」
「それはジャスミンです」
「え、ジャスミンってあの中国茶にある…」
「そうですよ」

あまり飲む機会はないが、たまに成瀬が淹れてくれる時がある。
決まって気が張って苛々している時に。
あの香りを嗅ぎながら、横に座る成瀬の温もりと心身が安らぐ、そんな幸せな気持ちを思い出した。

「それじゃあ、あの白いカトレヤとこのジャスミンで大きめのブーケをお願いします」
和希の注文に、店員はかしこまりましたと返事をして、テキパキとアレンジしていく。
「もしかして奥様にプレゼントですか?」
「え?」
「先程、幸せそうなお顔でジャスミンのお花を見ていらしたから」
少しからかいの籠もった微笑みに、和希は苦笑する。

奥様。

自分より背が高くて、男前で、料理も上手で、目一杯甘やかしてくれる、でも夜にはたくさん泣かされるそんな恋人。

「そう、ですね」
笑いながらそう言うと「きっと喜んでくださいますよ」と手早く仕上げた花束を手渡してくれた。
代金を払って、店を出る。

これを渡したら、どんな顔をするだろう。
喜んでくれるかな、もしかしたら照れてくれるかな、そんな事を考えながら真っ白な花束を抱えて家路を急ぐ。

帰ったら、ただいまを言って、花束を渡そう。

いつもありがとうの
感謝をこめて。






Happy end




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