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ダーリン達の傍迷惑な夜




「とりあえず乾杯〜」
生ビールの入ったグラスをカチンと合わせてから、それぞれのペースで飲み始める。
チェーン店の居酒屋の1番奥の席を陣取った4人は、居酒屋が似合わないのか、周りから注目を浴びていた。

「それにしても珍しいですね。皆さんが留守番なんて」
「僕のハニーはいつも忙しいからね」
「そうだな〜。でも俺もせっかく早く帰れる日に限って隼人がツナの所だから、みんなが付き合ってくれて嬉しいぜ」
ニカッと笑うディーノに場が和む。
「高耶さんも実家に用事があるだなんて、珍しい事なんです…」
寂しそうに言う直江は、いつもと違って母性本能をくすぐられる感じだ。
「そういえば、リョーマが留守ってのが1番珍しいよな」
ディーノがそう言うと、手塚は眉間に皺をギュッと寄せて、ボソリと呟いた。
「…初めてだ」
「えっ、そうなの?」
成瀬がそう驚くと、皆も同意するように目を見開いた。
いつも仲が良いと思ってはいたが、まさか手塚が帰る時に必ず家にいるとは…。
「せっかく一緒にいられるのにわざわざ出掛けたくない…と言っていた」
「リョーマくんは本当に手塚さんの事が好きなんですね」「ほんと。僕もハニーからそんな事言われてみたい」
羨ましそうに成瀬が言っても、手塚の表情は冴えないままで。

「でも、最近リョーマの様子がおかしいんだ」
手塚がいつもより余計に眉間に皺を寄せてそう呟くと、成瀬は和希から聞いていた話に近づいてきた事に気付いた。
「リョーマが、どうかしたのか?」
ディーノがそう尋ねると、手塚は静かに話し出した。
「最近何か言いたそうにしてるのに言わなかったり、今日もどこに行くのか聞いても答えなかった…」
「内緒でお出掛けですか。それは心配ですね」
「もしかしたら、リョーマは俺と別れたいのかも知れない」
どんよりした手塚の顔を見た3人は声を揃えて「それはない」と全否定した。
皆の声がただの慰めに聞こえたのか、手塚はブツブツ言い募る。
「俺は気が利かないし、リョーマの喜びそうな事もわからないし、呆れられたのかと思うんだ」

「手塚さん!」
弱音吐きまくりの手塚に、成瀬が少し大きな声で名前を呼ぶ。
「自分の好きな人を信じなくてどうするんですか!」
「そうですよ。誰が見ても、リョーマくんがあなたの事を好きな事わかりますよ」「そうだぜ〜。それに、そんなに気になるならリョーマに直接聞けば良いじゃねぇか」
手塚は黙ったまま、皆の言葉を聞いている。

「そうだ。リョーマくんにプレゼントをあげてみるとかどうですか?仲直りのきっかけになるかも知れないですよ!」
喧嘩にもならない、ただのすれ違いなのだが、手塚にとっては真剣な悩みだった。
だからか、成瀬の提案に興味を示した。

「プレゼントか…。今まで一緒に買い物に行っていたから、そういうのも良いかも知れない」
手塚は皆に質問してみた。
「皆さんはプレゼントにどういうものを贈るんですか?」
「私は花が多いですね」
「花か…」
「高耶さんには真っ赤な薔薇が似合うから、いつもそうしていますよ」
「俺はアクセサリーだな。隼人が好きだから」
「アクセサリーか」
「僕は贅沢な休日。和希をゆっくり休ませてあげるんだよ」
「俺もいつもリョーマには世話になっているばかりだから良いかも知れない」
色々な意見に、手塚は真剣に悩み始める。
その時、暢気な声でディーノが提案した。
「別に1つを選ばなくても、いっその事全部したらいいんじゃねぇ?」
手塚はハッとした。
いつも一緒にいるために頑張ってくれているリョーマにはいくら感謝しても足りないくらいなのだ。
それが良い。
「皆さん、ありがとうございます」
いつも笑顔を見せない手塚のはにかんだ笑顔に、3人はホッとした。

問題が片付いたとばかりに、今度は各々の惚気大会が始まった。
「そういえばこの前、和希がね、大会に勝ったお祝いにってこのセーターを編んでくれたんだよ〜」
「マジかよ!なんか模様が複雑だな」
「和希、本当に忙しいのにこんな難しいの編んでくれて。僕のハニーは世界一可愛いよ!」
「和希も凄いけど、俺の隼人も負けないくらい可愛いんだぜ!この写メ見てくれよ〜。瓜と2人で、俺の上着抱いて寝てるんだぜ!」
「可愛らしいですね。でも高耶さんも素敵なんですよ。この前は私の実家まで行って母とお節を作ってくれて、母も喜んでました…」

その頃の和希と高耶と獄寺はくしゃみを連発し、嫌な悪寒を感じていたかも知れない。
そして極めつけは手塚の言葉だった。

「リョーマは何もしなくても可愛い」

3人は何も言えなくなり、周りの席も次々に店を出て行った。
良い男が揃って何を話しているのか興味津々だった他の客も、まさかこんなひどい惚気を延々と聞かされるとは思いもしなかったのだろう。そして、他の3人も手塚に負けまいとハニー自慢を披露していく。
こうして、何の為に集まったかわからなくなったダーリン達は、 閉店まで延々と惚気話を続けたのであった。



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