スターダストタイム。

「おーはーよ、いい加減起きろよ、健斗」

仰向けになりながら、ふてくされた顔を右手で固定し、隣に寝ている楠野を見つめる中迫。

昨日の夜中、家族みんなで怖いDVDを見たからか、

『俺全然怖くなかったぜ!1人でも余裕で寝れるぜ!』

とかなんとか強がってた楠野が、電気を消した瞬間中迫の布団に潜り込んできて、そのまま朝まで退かずそのまま今に至る。

「ったく、健斗が怖がりとか……知ってたし、強がる必要なんてないだろー?」

独り言のように呟きながら、中迫は空いていた左手で楠野の髪の毛にそっと触れる。

「やわらけ───」

ぽつ、と本音を漏らしたところで、目の前の楠野がそっと目を開けた。
まだきちんと目は開いてなかったが、うつろな目で中迫の姿は発見できたようだ。
次の瞬間、楠野は中迫の手を振り払い、慌てて布団から飛び出した。

「なっ、な、ななな、何してんだよっ!」
「何って……起こしてやろうと」
「髪触って起こす奴なんているかよ!」

妙に顔を赤くする楠野を不思議に思う中迫は、頭の上にクエスチョンマークを3つほど浮かべて、首を傾げた。
一方楠野は、自らの髪をグシャ、と鷲掴んでいた。

「健斗、なんでそんな顔真っ赤なの?」
「それは、お……お前がっ、す、すごい髪の毛優しく触ってくるから……///」

あーそうか、俺のせいか。
中迫は心の中でそう呟いて、うんうんと頷いた。

(てか健斗、その顔……)


───バンッ


「朝朝朝朝朝っ!早く起きろーー」

大きな声で荒々しく戸を開けたのは、中迫や楠野の2つ上の兄、藤木であった。

「雅也ーー、その起こし方なんとかならないの?」
「バカ、兄ちゃんって呼んでくれてもいいだろっ」
「だって兄ちゃんに見えないんだもん?」←
「なんだとー!」

藤木は2人の兄であるが、2つ歳が離れてるとは思えないほどに言動が子供っぽい。
今まで中迫に『兄ちゃん』と呼ばれたことは一度もなく、いつか呼ばせてやろうと必死に兄貴っぽいことをしようとするも、いつも裏目に出ている。

「じゃあ俺たち着替えたら降りてくるな!雅兄っ」
「け、健斗……お前だけだな、俺のこと兄貴として見てくれるのは……」
「なんだよそれ 」

あはは、と笑いながら楠野が中迫と兼用のクローゼットに手をかける。
ゆっくりと開いた隙間から、すばやく中迫が自分の制服を取り出して、遅れた楠野は少し悔しそうな表情を浮かべた。


───トントン


2階から2人揃って降りてきた中迫と楠野。
降りる途中、朝ご飯の匂いが2人の鼻を刺激した。

「おはよ、」
「うまそうな匂い♪……あ、おはよっ」
「ん、おはよう、2人とも」

味噌汁を少しすすって、眉間にシワを寄せた前村は、2人に気づくとふっと優しく微笑んだ。

「賢兄、なんか味噌汁似合うな……」
「絢、それ俺も思った……」


───ガツッ


「って!」
「何してんだよ、賢一」
「だ、大地っ……わり、もうそんな時間!?」
「当たり前っ、お前味噌汁飲むのに何分かけてんだよ!」

いきなり前村の頭を小突いて文句を言い出したのは、前村と双子で同じ大学に通っている藏宮だった。

「ね、猫舌なんだよ!わかれよ!」
「んなの知ってるけど……猫舌なら飲むなって話!」
「ぅ…………」

先に言葉を詰まらせたのは、猫舌をやけに主張していた前村。
藏宮の最もな意見に、何も言えず黙り込んでしまった。

「ほら、行くぞ?」
「おうっ、」

なんだかんだ言い合っても、結局は仲良しな2人。
さすが双子、とでもいっておこう。

「行ってきます、健斗っ」
「お、おうっ!?」

目の前を通り過ぎる藏宮が、一瞬楠野に見せた笑顔。
いきなり呼ばれた名前にびっくりした楠野は、しばらく硬直していた。←
その意図は、今は誰にもわかる術もない。

「ほーら、絢と健斗もさっさと座った座った!」

こつ、と軽く中迫と楠野の頭を叩いたのは、みんなのお父さん、貴本だ。

「はーい!」
「ところで、母さんは?」

いつもならテレビで毎日ある今日の占いを熱心に見ているのに……
そう考え不思議そうにに尋ねる楠野。
貴本は、控えめに笑い頭を掻いて、お母さんである古井が寝ているであろう寝室を指さした。

「いや、なんかさ……昨日見たDVD?あれすごい苦手だったみたいで、」

その先は大体想像できたらしく、2人ともぶっ、と吹き出して大きな笑い声をあげた。

「まぁ、こんなことあんまり話したら亮太が可哀想だからさ!ここだけの秘密な?」

笑いながら両手を合わせる貴本。
もはや秘密にして欲しいのかしなくてもいいのか、今の貴本の顔からは何が言いたいのか予想ができそうもなかった。

2人はとりあえず、頷いた。←

「じゃ、食べたら行くんだぞ?」

貴本はキッチンに洗い物を重ねていくと、洗面所へと向かっていった。
大きなダイニングテーブルの上に置かれた弁当は、触るとまだ暖かかった。


────


「んじゃ、行ってきますっ」
「あ、ちょっと絢!弁当忘れてるぞっ」

玄関から外に一歩踏み出した所で、中迫たちは呼び止められた。

「え!」

声のする方を見ると、そこには両手に弁当を持っている藤木がいた。

「ほいっ、何忘れてんだよ 」
「ん、別に忘れてたワケじゃねぇしっ」

ぶっきらぼうに弁当を受け取ると、中迫は表情をあまり変えずにバックに押し込んだ。

「ほいっ、健斗も!」
「お前もかよ!」

まさか2人とも忘れるとは……
というのも、この2人だって一応双子ではあるし、やっぱり顔は似てなくてもどことなく似ている部分はあるものだ。

そんなこんなで、3人で学校へと向かうことになった。
今日の通学路は、いつもよりも騒がしくて……だけど、口には出さないが3人にとっては、案外楽しい時間だった。

Today...2014/03/22...END
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