午後の青空。

「ふあぁ……ったく、午後の授業眠すぎだって…………」

教室で教科書を開き机に立てて、窓からぼうっと空を眺める藏宮。
現、5時間目休み時間。
周りからはクラスメイトと声がやんややんや飛び交い聞こえてくるが、正直藏宮は眠すぎて、自身の友人の処へ行く気にはなれなかった。

「ん……あれって、」

目を軽くこすり、空よりもっと下の校庭へと視線を移すと、そこには見覚えのある同じ部の友人である前村がいた。
声をかけようと息を吸うも、前村の隣に藤木がいて、仲むつまじく話す2人を眺めている方が楽しいと考えたのか、いつの間にか藏宮の口は閉じ、その表情からは笑みが溢れていた。


───バチッ


ふと、こちらを振り返る前村が藏宮の姿を捉える。
視線が交わる2人の間に、なんだか気まずい空気が流れる。

しばらくの沈黙を斬ったのは、前村だった。

「何見てんだよー」

両手をメガホンの形にして大きな声で窓から顔を覗かせる相手に問いかける前村。
藏宮はというと、眠くてとてもじゃないが大きな声を出す気にはなれず、机の中を探り出てきた少しクシャっとした英語のプリントの裏に本来なら口から言うべき言葉をシャーペンで書いていく。

めんどくさそうに書き終えて大きな伸びをした後、藏宮は校庭からこちらを見上げている前村に紙をヒラヒラと見せる。

「何も見てねぇよ。ってか暇」

シンプルだが大きなその字は遠くから見る前村にもすぐ読み取ることができたようで、藏宮らしい文体に思わず口に当てていた両手を下ろし、ふはっと吹き出して笑い出す。

「大ちゃん、暇なときなんてあるんだなー」

再び書かなきゃいけないのか、と藏宮はめんどくさそうにため息をもらしてまた一旦紙と向き合い、何を書こうか考えを巡らせる。
(あっ……)
心中思い浮かんだ前村への言葉を大きめにサラサラと書いていく。

「何かおもしろいことやって」

自身でも言われたら戸惑う無茶な頼みを平気で紙に書き連ね、前村の反応を見ようとニヤニヤしながら校庭の方を見つめる。
案の定、前村はありえないと言わんばかりの表情を一瞬のうちに浮かべあげた。

「ありえなっ、大ちゃん!それは無理だわ!」

首を左右に振りまくる前村の反応を見れたところで、藏宮はぷ、と小さく笑い先程余分に書いておいたもう一枚の紙を前村に見せる。

「今からまえけんのとこ行く、あんまりそこから離れんなよ」

その字を前村が読み取れたことを確認すると、藏宮は小さく頷き自身の席を立ち上がった。

「あれ、どうしたの大ちゃん?」

教室の出入り口付近で貴本と意気投合していた楠野が不思議そうに首を傾げて藏宮に問いかけるが、あまり気に止めずにそのまま教室をあとにする。

というのも、実際現時点の藏宮はほぼ半目状態。
眠気が強すぎて、普通ならあのまま机に突っ伏してやるせない気持ちを机の脚にぶつける処だろう。

「よっ、まえけん」

なぜか落ち着かない様子で辺りを見渡す前村の背後から、声をかける。
藏宮の声が聞こえると、前村は驚きで見開かれた目のまま振り返るとそこには、片手に先程見たシンプルな文体で適当に書かれた紙をヒラヒラさせながらにい、と笑う藏宮がいた。

「大ちゃん……」

ぽつ、と前村の口から自然と溢れ出た名前に目の前の藏宮は不思議そうな顔をする。

「ほんとに来たしっ」
「来るって言っただろー!」
「だけど来るとか思わねぇだろっ」
「はーあ!来て損したー」

しばらくの口論を続けた後、先に折れたのは藏宮で、そっぽを向き口を尖らせて「帰る」と拗ねた声で呟き足を先程歩いてきた方向へと向かせる。
そのまま遠ざかる藏宮の後ろ姿に何か声をかけようと口を開く前村。

「あっ……だ、大ちゃん!」
「んーなんだよ?」

相変わらず口を尖らせたまま、藏宮がゆっくりと振り返る。
片手に持たれていたプリント用紙は荒々しく藏宮自身の手と一緒にポケットに詰められていた。

「ありがとな?わざわざ来てくれて……」

照れ隠しに右手を首の後ろに回し、右腕に顔を隠し覆うような仕草を取りながら呟くように言う前村の姿に、出てきた笑いを止められない藏宮はぷ、と小さく笑った。

「ほら、行くぞ?」

そして顔を隠す前村の右手を掴み、校舎へと足を進める。
たまには無理して会いに行くのもいいな、なんて心の中でぽつんと呟きながら、藏宮は顔を赤くする前村をちら、と横目で見て思わず笑みを溢した。


「なー大ちゃん!」
「んー?」
「俺、次体育……」
「は!?早く言えよ……」


午後の青空……君のタメなら歩いていける。




Today...2014/04/02...End
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