門を開けて、玄関のドアの鍵を開けて、桜を家の中に入れた。
中は蒸していたから冷房をつけて、桜にリビングで待ってるように言いつける。
蒼志は、家に入ろうとはしなかった。
だから俺は荷物を置いて、そのままもう一度外に。
「…いつから居たんだよ」
「……」
「言ってくれたら、もっと早く帰ってきたのに」
居心地の悪い視線は一緒にだった。
「……」
「……」
蝉の声がうるさい。
なのに、それは頭の遠くに反響する。
「誰だよ」
やっと喋った蒼志の声は、酷く低い。
どこか、怒ってるように聞こえた。
「…誰でもいいだろ」
中学の同級生だと、そう言えばよかったのに、そう素っ気なく返して。
機嫌を悪くする蒼志に、どうしてか俺も急に苛々してきて。
「何が気に入らないんだよ」
「……あ?」
「俺が女子と歩いてたから?」
「……」
「蒼志も彼女、いるくせに」
「…いねぇよ」
「どうだか」
汗が段々と引いてくる感覚、同じ気温のはずなのに、少しずつ涼しくなった気がした。
「デート、してたって聞いた」
「誰に」
「わざわざ家にくる必要なかったのに」
吐き捨てる。
本当は家の前で待っていてくれた蒼志に、戸惑い、だけど、嬉しさも、あった。
でも蒼志にそう言うことも出来ない。
「司には関係ねぇだろ」
舌打ち。目線を逸らす。
居心地の悪そうな、その態度に、心臓が早く、脈打つ。
ああ、……そっか、本当、だったんだ。
「だったら、蒼志にも関係ない」
泣きそうだった。
蒼志に彼女がいたとか、それは誰だとか、あと。
俺が、勝手に、失恋したのに、それを、蒼志の所為にしようとする、自分の身勝手さに。
蒼志を見れなかった。
見たくなかった。
背を向けて、家のドアを開けて、玄関で、しゃがみ込む。唇を、噛みしめる。
すぐにバイクのエンジンのかかる音が聞こえて。
これで、終わりなんだと、思った。
11.彼と彼女
(おわり、)
(……もう、お終い)
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