「佐藤!」
茹だる様な暑さの中、呼ばれたと同時に肩を掴まれた。
ファミレスからはそんなに距離は離れていないが走ってきたんだろう、俺のことを呼んだ水内は額に汗を浮かばせている。
「私もそろそろ帰ろうかと思って」
へらりと笑った彼女は息を整えて、桜の隣に並んだ。
「なんかさ」
「なんだよ」
「へこんでる?」
「は?」
横を見ると、水内は前を向いていて、桜は水内を見上げて首を傾げている。
「ね、晩御飯前まで佐藤の家、行ってもいい?」
「別に、構わないけど」
「ありがとー」
蒼志と鉢合わせるかもしれない、と一瞬思って、でもすぐに後輩の言葉が浮かんだ。
もしかしたら今日は来ないかもしれない。家に帰って、…一応連絡をいれて。
それから対応すればいい。
「それで、さっきの話だけど」
「だから、なんだよ」
「へこんでるの?」
「……桜、危ないから前見て歩いて」
「うん」
意味がわからなくて、真ん中に挟まれた桜が俺たちを交互に見上げて歩くのを注意すると、水内はわざとらしく溜息を零した。
…何なんだ、さっきから。
「言いたくなったら言って」
「どーも」
目の前の道路が熱で歪んで見える。
その先を追いながら家の近くの角を曲がると、車の邪魔にならない端に、バイクが、置いて、あって。
「あ、」
この炎天下で、バイクに寄り掛かる、男がいた。
「あっちゃん!」
俺の手を解いて、桜はそこに走っていく。
「え、あれ、…佐藤ん家だよね、?」
水内と俺は、戸惑って、そこに立ち尽くす。
桜に手を引っ張られながら、その男は俺たちを見ていた。
「……水内、ごめん、また今度でいいか」
「それは、大丈夫、…大丈夫なの」
水内は少し顔色を悪くして、その男から目を逸らし俺に問いかける。
当たり前だ、あんな、…あんな視線、俺だって。
「ともだちだから、大丈夫」
じりじり、日に焼ける気がした。
彼女が納得しないまま去った後、俺は冷たい目をした蒼志の方に、歩いた。
← top →