耳に触る電子音に、もう朝か、と目覚ましを兼ね備えた携帯を手にとった。
止めようとしたところで、それが電話だと知る。
そういえば、目覚まし、頼んだっけ。
「……起きてたんだ」
『電話しろって言ったの、お前だろ』
「………ん、ありがと」
寝れないと思ってた割には、そのまま寝てしまっていたようだ。
布団もかけず、倒れた格好のままだった。
「おはよう」
『俺は寝る』
「じゃあ、おやすみ」
『ああ』
そこで電話が切られるのかな、と思ったけど、途切れる音はしなくて、無言の状態が続いていた。
『………切れよ、忙しいんだろ』
「………蒼志こそ、寝るんだろ」
漸く頭が冴えてきて色々と昨日のことを思い出す。
でも何となく聞かない方が良い気がした。
寝巻きを脱いで違う服を引っ張り出してきてる間も携帯は離せない。
部屋の扉を開けて下に降り、やかんに火をかける。冷蔵庫を開けて、卵を取り出して。
「………寝た?」
『…………寝てない』
「今から目玉焼き作るんだけど」
『俺の分まで作んなよ』
「作ったら食べに来んの?」
『起きたら考えてやる』
「どうせ起きんの昼過ぎだろ、昼食と一緒になるけど」
『蕎麦と目玉焼きか』
「今日は蕎麦じゃないよ」
『だったら冷やし中華あたりか』
「この間食べた」
肩に携帯を挟んだまま何かを作ることは始めてだった。
熱したフライパンに気をつけながら、ベーコンを置いて卵をひとつ落とす。
蓋を被せて、沸騰したやかんの火を止め、取り出したレタスを千切り、トマトを切った。
朝食もお弁当も全部が完成した時、寝ぼけた桜がリビングの扉をあける。
「つーちゃ、おはようー」
「おはよう、桜」
『もうそんな時間か』
「もうそんな時間だよ」
「つーちゃん?」
「はい桜、あっちゃんだよ」
「あっちゃん!」
携帯を桜に渡すと、目を擦っていた手でそれを受け取って元気良く朝の挨拶をしていた。
テーブルに朝食を並べて、起きてきた父さんに挨拶して、どうしてか蒼志と話したがるから携帯も渡して、いつもよりほんの少しだけ遅い時間になってしまった。
「おやすみ」
『……おやすみ』
最後にまた回ってきた携帯にそう言えば、今度はぷつん、と電話が切れた音。
目玉焼きをひとつ、ラップをかけて冷蔵庫にしまったら、両手を合わせて、三人でいただきます、と声を揃えた。
10.彼女と彼女
(冷えた目玉焼きって、)
(美味しいんだろうか)
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