走り去って行ったバイクを眺め、そのまま、数分が過ぎる。
……俺は、何、を、された、…?
「う、わ……」
顔が熱い、外の蒸し暑さも手伝って、じわりと汗が滲む。
あいつの真意は知らないけど、でも、なんてことを。
家のなかに戻って、がちゃがちゃと鍵とチェーンを閉め、靴を脱ぎ捨てる。
台所に向かってコップに水を入れて、一気に飲み干し、シンクにそれを置いて、リビングのソファーに、座り込んだ。
カーテンから街灯のひかりが射すだけの暗い場所。
ソファーの上で膝を抱えて顔を埋める。
どうして、なんで。
もしかして、また、ノリみたいなものだろうか。
でもこっちには、一応、そういう気持ちがあって、そんな、期待を持たされる事をしないで、…。
そうだ、………期待、は。
しない方が、いいんだと、思う。
どういう訳か蒼志はそういうことをしてくるけど、だって、男同士だ。
俺だってもしかしたら、これは思春期特有の感情で、あいつが傍にいてくれるからそう思い込んでるだけかもしれない。
ぐだぐだ考えていると、ぱちん。と、急に周りが明るくなった気がして、ゆっくりと顔を上げた。
「司?」
「……父さん」
「玄関で音がしたから、どうしたのかと思ってね」
「ごめん、起こしちゃって」
振り返ると父さんがリビングの明かりのスイッチに触れている。玄関の開け閉めとかで心配を掛けてしまったようだ。
「あっちゃんかい?」
「え、」
「バイクの音が聞こえたから」
「……うん、そんなとこ」
長話をしては、明日仕事がある父さんにも迷惑だろう。
立ち上がって、もう一度ごめん、と謝った。
「司」
「なに?」
「良いんだよ」
「……え?」
ぱちん。
今度は電気が消えて、父さんはおやすみ、と言って部屋に戻って行く。
謝ったことに対してか、それ以外か。
考えることが増えてしまって、俺は、部屋のベッドに倒れこんだ。
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