不良とシスコン、時々天使 | ナノ


side 蒼志


話したくない、と。

言われただけで、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けたような気がした。
問い詰め方が悪かったのか、そもそもそんなことをしなければ良かったのかもしれないが、後の祭りだ。

俯いてしまった司も、言い過ぎたと思ったのかもしれない。

バイクを離れて、その存在を確かめるみたいに、手を伸ばした。


「……んなこと、言うな」


自分でも驚くほど情けない声だ。
司から零れた名前も、負けず劣らず情けなかった。
力が篭る。離せない。

それから、背中に二本分の腕の温かみ。
夏に、男ふたりが、こんな情けない醜態を晒している。
だけど、誰も咎める奴はいなかった。

「………ごめん」
「……俺も、悪かった」
「…蒼志が謝ること、いっこもないじゃんか」
「だったらお前も謝んな」
「……ん」

すぐ耳元で行われる会話はくすぐったくて、その変わり近くにお互いを知ることが出来て。
このままずっと、居られたら良い。

「蒼志」
「ん」
「家、入る?」
「……いや、今日はいい」
「そっか」

どちらからともなく、すっと腕が外れる。
曖昧に笑う司の、すっきりしない表情がどこか恐ろしくて、自分の手のひらを頬に添え、それを隠した。

「朝、何時だ」
「いつも通り」
「寝坊すんなよ」
「じゃあ蒼志が起こして」
「どうやって」
「どうせ起きてるんだろ?」
「さあな」
「モーニングコールってやつ」
「起きてたらしてやる」
「じゃあ目覚まし止めとこ」
「いいのかよ」
「いいんじゃない」

眠そうに瞬きする。
さっきまであんなに、…いや、戻って寝るんなら、それで構わない。

「おやすみ」
「……ああ」

自然と離れる身体。
バイクの方に戻って、エンジンをかける。座って、ヘルメットを持って。

「司」
「ん?」
「来い」
「なに?」

何の警戒もないまま近付いてくる司の頭を引き寄せ、そのまま軽く唇を押し当てた。

「……おやすみ」

ぽかんとする司の髪を一度撫でて、ヘルメットを被って、肩をとんと押す。
何歩か後退したのを確認してから、静かな住宅街の一本道に、バイクを走らせた。

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