不良とシスコン、時々天使 | ナノ


どんなメールしてたっけ。さあ、覚えてない。だよね。それで?え、別に用はないけど。何だよそれ。だって久々だったから、つい。

会った日の、寝る間際。
広く寝転がれるベッドで、そんなメールをした。
中身なんてなかった。中学の頃度々していたメールは、どんな内容だっただろう。
あるいは、こんな内容のないものだったような、気もする。

電話してもいい?

いいけど、なんて打つのも面倒で、こっちから電話帳の、ま行を探す。
選んで、電話番号を押すと、電話は勝手にかかった。
ワンコールもしないうちに、水内の声が聞こえる。

『もしもーし』
「はや」
『だって携帯いじってたもん』

それにしたって早いとか、普通だとか、またくだらないことを繰り返す。
その後一瞬ふと間があって、少し暗い声が、した。

『佐藤さ』
「ん?」
『すきなひと、できた?』

好きな、ひと。
すぐに浮かんだ顔に、やっぱりな、と自分で苦笑を零すしかない。

「……できた、かな」
『そっかぁ』

残念そうでも何でもない、興味も無いわけでもない、曖昧で、淡々とした返事。

『あのね』
「うん」
『私ね』
「うん」
『彼氏、出来たんだけど』
「うん」
『……わかれ、そう、で』

消え入りそうな声。
ぐす、と鼻を啜る音がしたから、多分泣いてるんだろう。

『喧嘩ばっかりで、でも、私は、好きなんだけど、何となく、わかるじゃん、そういうのって』
「……ん」

誰とも付き合ったことはないけど、それこそ何となく、言わんとしていることはわかった。

『何が、悪かったんだろう、』
「うん」
『どうしたら、いいのかなぁ』
「うん」

答えは求めていないと思う。
ただ、聞いて欲しいだけなんだと思う。
中学の間、彼女が悩んでたり、俺が悩んでたり、そういう時はお互い話を聞いて、何か言って欲しい時は相手の言葉を聞いて、それだけ。
それだけで、随分助けられてきた。

三十分位。
泣き続ける彼女に相槌を打つ。

『…ごめんね』
「何が?」
『久々なのに、こんな話しちゃって』
「別に」
『ありがと、すっきりした』
「ん」

鼻声だけど、愚痴ったらちょっとは楽になったようだった。

それから少しまた簡単な話をして電話を切る。

「……あー」

時間はとっくに次の日になっていた。
メールも電話も、他にきていない。

通話履歴を開いて、上から二番目。
何にも考えずに、二回目のコール、三回の。
五回目くらいに、騒がしい喧騒が聞こえた。


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