スーパーの袋を引き下げて家の中に入り、靴を脱ぐ。桜は脱いだ靴をきちんと整えていて、成長したんだな、と感慨深くなった。
それにしても整えた後、よし、と確認して笑う桜が本当に可愛い、すごく可愛い。相変わらず天使だ。
「ただいまー!」
「ただいま」
そう声を掛ければ、二つの声が返ってくる。
蒼志と、緒方だ。
元々今日は蒼志が来る予定で、そこに緒方も付いてきたらしい。
「晩御飯何ー?」
「カレーの予定」
「あまくちなのよ!」
「あ、そっか、桜ちゃんいるなら甘口だもんね」
「うんっ」
桜の分だけ甘口で、俺たちのは中辛とか辛口には出来るけど、そうするのはちょっとめんどくさい。父さんも俺ももう甘口に慣れてるし、それでいいかと思ってた。
「緒方、甘口だめ?」
「やー?食べた記憶あんまないけど、多分平気」
「そっか」
だめ、と言われたらもう一度スーパーに行くところだったから、すごく助かる。
「桜、蒼志たちに遊んでてもらって」
「うん!」
買ってきたものを冷蔵庫に入れて、今日使う分はシンクに並べた。
カレールーは幾度となく使ったお陰で、作り方は見なくてももうわかる。
人参の皮を剥いていると、桜のはしゃいだ声が聞こえた。
「あのね、ももちゃんにあったの!」
「ももちゃん?」
「ももちゃん!」
「……誰だそれ」
「みずうちももちゃん!」
蒼志と緒方が助けを求めるようにこっちをみてきて面白い。
何で同じタイミングなんだよ。
「水内は、俺の中学の同級生」
「ももちゃんてことは女の子だよね?かわいい?」
「桜には適わない」
「じゃあ桜ちゃんがトップとしたら何番目くらい?」
「さあ…」
女子のことになると緒方はうるさい。
そんなに顔良いんだから黙ってたらモテるっていうか、黙ってなくてもモテると思うんだけどな…。
「あ、でも桜ちゃんとも仲良いんだね」
「ももちゃんはさくらのおともだちー」
「ああ、水内はうちに何度も来てるから、桜も覚え、て……」
空気が、ぴりっと、した気がした。
今まで黙ってた蒼志が、何か眉寄せて、余計むすっとした、ような顔。
「蒼志?」
「あ?……あぁ、いや、何でもねぇ」
「あ、そう…なら、いい、けど」
声をかけたらその顔はすぐにどこかに消えたけど、何だったんだろうか。
緒方と桜は今のやりとりに首を傾げていたから気付かなかったみたいだし、ほんの少しの変化だったし、もしかしたら本当に勘違いか何かかもしれない。
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