蒼志がその場にいると、随分と楽だった。というのも、大体の俺に対しての問いかけも答えてくれるし、周りの人たちの興味も、俺よりこいつに移っていくから。
「緒方」
「ん?」
「蒼志、いつもこんな?」
「いや、いつもはもっと静か、っていうか全然喋んないよ」
こんなに人と応対してるのは滅多にない、らしい。
だからこんなに余計集まってるんだとか。
…俺の所為みたいなものだけど、連れてくるのも悪い、ってことにしておこう。
ウーロン茶の氷が解けて、薄まって、ぽたぽたとテーブルに置いたグラスの周りの水滴が落ちる。
「行くか」
「…どこに?」
「どこがいい?」
「どこでもいい」
「わかった」
粗方話は終わったんだろう。ぼーっとしてた俺には、やっぱりよくわからない。
ソファーから離れようとした蒼志の後ろにくっついていくと、急に振り返られた、びっくりした。
「陸」
「なにー?」
「メット、貸せ」
「いいよ、朝には返してね」
「わかってるよ」
…あ、バイク、使うんだ。
そう言えばさっきもそんなこと言ってた。本当に、出かけるんだ。
今、何時だよ。
高校生、補導される時間じゃん。
こんなこと、考えたこともなかった。
夜に、こんな時間に、誰かのバイクの後ろに乗って、どこかに行くなんて。
「ほら」
「うわ、」
「被っとけ」
階段を降りて外に出て、バイクの前で渡されたのは、ちょっとごついヘルメット。
………あれ、でもこれ、見たことあるやつだ。
「これ、蒼志の、」
「ん」
「緒方のでいいのに」
「だったら俺のでもいいだろ」
「そうだけど」
なんだ、それ。
被ったヘルメットで、頭がくらくらした。
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