「へえ、君が噂の!」
「普通の子ね」
どうしよう囲まれた。
蒼志がどこかにいった途端、わらわらと色んな人が集まってきて、びびって緒方の腕をつついた。
助けて、と目を向けると一瞬驚かれた顔をされたが、すぐにいつもの人懐こい笑顔に戻る。
「ちょっとやめてくださいよ、司ちゃん一般人なんですからー」
「へえ、司くんって言うんだ」
「最近蒼志が付き合い悪いと思ったら、まさかねぇ」
男の人もいれば女の人もいる。
緒方の様子からも、年上のひと達が多いと思う。片手にグラスを持ってて、その中味は恐らく酒で。
「あ、司くんも何か飲む?」
「え、いえ、あの、だいじょうぶです、」
「あははっ、困った顔してるー」
「だからやめてくださいって、俺があっくんに怒られちゃうんですよー?」
わしわしと、とても美人なひとに頭を撫でられた。伸びた爪がちょっと痛い。
代わる代わる知らないひと達が俺に話し掛けてきて、キャパオーバーしそうだ。なんでこんなところにいるんだろう、俺。
帰りたい。場違いにも程がある。
視線をふらふら彷徨わせたとしても、見えるのは知らない顔だけ。
緊張して、喉が引きつる。もしドリンクをもらえるのなら、と腰を上げようとしたところで、目の前にグラスが差し出された。
「ほら」
「……」
「酒じゃねぇよ、ウーロン茶」
どうしてこんな良いタイミングで現れるのか、全くの謎だ。
ドリンクを取りに行ってたなんて俺は知らなくて、単純に置いて行かれたと思ってた。それがただの気遣いとか、本当に、何なんだ、このイケメン。
「…んな不貞腐れた顔してんじゃねぇよ」
「別にー」
「悪かったよ、置いてって」
俺の隣、ソファーの腕置きに腰を下ろした蒼志の方に頭を倒して、大体肋骨のあたりに軽く頭突きしてやった。
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