すっと手が離れた時、目の前には隠れ家的なバーがあった。
……ちょっと待て、溜まり場って、いいのか、こんなところ。
なんて、焦ってる俺に蒼志は構いもせず、その扉を開けた。
いらっしゃいませ、と言う声は一応聞こえたけど店員さんがこちらを構うことはなく、そして蒼志も慣れた様子で店の奥に脚を進める。
狭い階段を登ると、そこは一階より人が沢山居て。
「……なんで後ろ隠れてんだよ」
「…………目線がですね」
一斉に向けられた目線に、流石に怖気ずいた。だって怖くね。怖いに決まってる。柄の悪い人たちがこっちを見てるんだから。
「こっちだ」
蒼志の服の裾をちょっと拝借して、隠れながらその後ろを歩く。お願いだから俺を見ないでくださいお願いします。
「あれ、司ちゃんじゃーん!」
こそこそしていると、聞いたことのある金髪の声が聞こえた。緒方だ。緒方以外に居ない。
「え、何でここにいんの?お姫様は?あ、それより何で隠れてんのさー、ほらこっち来なよ!」
相変わらず騒がしいけど、今の俺にはその騒がしさがありがたかった。
「陸うるせぇ」
「いやだって司ちゃんよ?連れてくるとは思わなかった」
俺だって連れて来られるとは思わなかったよ。
「司」
「ん」
「そこ座ってろ」
緒方の隣、ってことでいいんだろうか。
頷くと蒼志はどこかにまた行ってしまって、こんなとこに俺を置いていくとは酷い。
結構ビビってるんだけど、俺。
「あっくん、すぐ戻ってくるよ」
「……ん」
緒方に気遣われるのはあれだが、近くにいる知り合いは彼しか居ないので、おとなしく革張りの高そうなソファーに腰を下ろした。
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