side 蒼志
日が暮れて、人が疎らに歩く住宅街。
まさかこんな時間に、今更弟と歩くとは思わなかった。
「……」
「……」
元々俺も緋里も、喋る方でもないし、そういえばここの何ヶ月も、録にこいつと喋っていない気がする。
「……」
「……」
「……緋里」
「…なに?」
そう思って声を掛けてみるが、生憎俺に気の利いた兄弟の会話なんて出来る訳がない。
あの兄貴じゃあるまいし。
「……蒼兄、あのさ」
「…ん」
「………司さん、いい人だね」
「……まあな」
「……桜ちゃんも、…いい子だね」
「…そうだな」
ぽつ、ぽつと、少し嬉しそうに語る緋里を、久々に見た。
可愛げのない、誰に似たんだか妙に礼儀正しく、感情を余り表に出さなかった弟は、本当はただ不器用なだけなんじゃないかと、思う。
気付けたのは、何だかんだあの家の存在があったからで。
「…今度、一緒に行くか」
「……え、」
「あの家」
「……一緒に?」
「………ああ」
「…………うん、行く」
住宅街を抜けて、繁華街に繋がる明るくなった道を、いつもよりゆっくりと、ペースを落として、隣を歩いた。
……ああ、また借りが出来たな、あいつに。
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