リビングに戻ると、緋里くんが困ったようにこちらを見ていた。
きっと蒼志からすぐ鍵を受け取って帰るつもりだったんだろう。
「緋里くん、どうせだから晩御飯食べてってよ」
「え、そんな、そこまでしていただく訳には、」
「いいのいいの、桜も喜ぶし」
「ひーちゃんいっしょ?いっしょ?」
「え、えっと、」
「嫌いなものあるー?」
「だいじょうぶですけど、その、」
桜にきらきらした目で見つめられながら腕を引っ張られ、本当に困惑しているようだ。
子供なんだから気にしなくて良いと思うんだけどなぁ。
「諦めろ、そこの兄妹はマイペースだから」
「お前が言うな、あと髪ちゃんと拭け」
「ん」
濡れた髪をオールバックみたいにあげたまま風呂から上がったらしい蒼志は携帯を操作していた。
「親には連絡しといた」
「ああ、ありがと」
…案外しっかりお兄ちゃんやってるんだな、こいつも。
「桜、ドライヤー持ってきてやって」
「はーい!」
「自然乾燥でいい」
「だったらそんな水滴ぼたぼた垂らすな」
「めんどくせぇんだよ」
「…緋里くんの方がよっぽどしっかりしてるわ」
「それは違いねぇな」
そう言って蒼志は未だ混乱してるらしい緋里くんの頭をぐしゃぐしゃと撫でていた。
それに安心したように彼は頭を下げて、甘え方が少し苦手なだけで、蒼志のことも頼りにしているように思った。
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