オレンジジュースで良いかな、と聞くと少年はお気遣いなく、とソファーの下にランドセルを降ろして、脚を揃えてそう言った。
目の前の桜もその行儀良さに感化されたようで、ソファーに腰掛け地面につかない脚を頑張って閉じている。
必死な姿が驚くほど可愛い。
「すみません、急に」
「気にしなくていいけど、…えっと、とりあえずお名前聞いてもいいかな」
「あ、申し遅れました」
座ったままへこりと頭を下げ、少し微笑んだ顔は。
「津田 ヒサトと言います」
どっかのイケメンとそっくりだった。
「……もしかしなくても蒼志の弟さん?」
「はい、兄です」
「………デスヨネー」
漢字で、緋里、と書くらしい。
津田家はあれか、兄弟揃って全員イケメンなのか……。
「それで、うちに訪ねてきたのは、蒼志に会うため?」
「はい、…家の鍵を忘れてしまって、両親と一番上の兄…トウヤ、って言うんですけど、夜じゃないと帰ってこないし、蒼兄なら鍵持ってるだろうし、それに最近は時々司さんの家にお世話になってるってトウ兄に聞いたので、それで、その……」
言っていくうちにそれがなかなか無謀であると気付いたんだろう。顔を曇らせていた。
一番上のお兄さん、橙哉さんに家の大体の場所は聞いたものの、俺と桜が声をかけなかったらどうなっていたのか、わからない。
「多分今日は来るって言ってたから、緋里くんはうちでゆっくりしていって」
「そんな、門のところで待たせて頂ければ、」
「いいから、ね」
「…すみません、お言葉に甘えて」
今までずっとおとなしくしていた桜は、それを聞いて遊んで貰えると思ったようで、早速ひーちゃん!と笑顔を向けていた。
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