不良とシスコン、時々天使 | ナノ


「じゃあ、行くから」
「ん、気をつけて」

駅で荷物を受け取って別れようとしたら、何故か当然のように家まで荷物を持ってくれた。
桜を抱っこしたままだと重いだろ、とか何とか。

歩いてる間に、会話らしい会話はなかった。
ただの世間話。
その他愛もない言葉が、無償に楽しかった。


「いってらっしゃい」
「……おー」


……何だ、いってらっしゃいって。
ここが帰る家でもないのに。
それでも否定しなかった蒼志は、何を思ってたんだろうか。



「なんで、っ、さくら、おこしてくれないの、あっちゃ、うぁあんっ」
「うん、ごめんね、桜」

しかし大誤算だったのは、やっと起きた桜がいつも以上にぐずったことだった。
……そんなに泣かないでよ、お兄ちゃんも泣きそうだよ。

確かに、目が覚めたらお家で、しかも、好、……気に入ってるひとがもう居なかったら、悲しいもんな。

いくらあやしても中々泣き止まなくて、本当は迷惑かな、と思いつつも、ついこの間手に入れた蒼志の携帯の番号に、電話をかけることにした。


ワンコール、ツーコール、それからもう何回か音が響いて、携帯の持ち主の声が聞こえる。

『――っせぇ、悪い、もしもし?』
「あ、ごめん、忙しかった?」
『気にすんな、それより何かあったか?』
「いや、それがさ、」
「ふぇ、うぇええ、」
「ちょっと、」
「つーちゃ、ひっく、うああんっ」
『………大体わかった』
「ごめん、桜にかわるから」

そうして泣いてる桜に携帯を渡せば、最初のうちは泣いていたのに、段々と落ち着いて、仕舞いには笑顔になった。
お兄ちゃん、大分ジェラシー。

それからご機嫌になった桜からまた電話を変わってもらう。

「ありがとう、泣き止んだ」
『そうか』
「忙しいときにごめん」
『陸がうぜぇくらいだから大丈夫だ』
「はは、何だそれ」

二言三言交わして、通話を切った。
…敵わないな、色々。
敵う部分もあるかもしれないけど、少ないんじゃないかって。

どうでもいいか、そんなことは。


「……つーちゃん、ごめんね」
「いいよ」

天使の涙で濡れた頬を袖で拭って、頭を撫でて。

「ご飯、一緒に作ろうか」
「うん!」

今日は楽しい、ピクニックでした。


05.ピクニックに行こう


(こんどはぱぱもいっしょね!)
(うん、そうだね)
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