「そろそろ帰ろうか」
空の色が変わりはじめ、あと少しで真っ赤になって、それから紺色になるだろう。
随分はしゃいでいたものだ。
「桜、大丈夫?」
「うん」
……と、頷きつつも大分眠そうだった。
そりゃそうだ、あんだけはしゃぎ続けたんだから。
それでも今まで遊び続けられた子供の体力って凄い。
「おてて繋ごうか、ね?」
「…ん」
多分、相当眠くて注意力散漫になってるだろう彼女の手をちゃんと繋いで。
家に、帰ろう。
駅のホームにつくと、そこは朝よりごった返していた。
手を繋いでいるから隣にいるとはわかりつつも、桜に声をかけてみるが、彼女は立ちながら半分位夢の中だ。
「桜?」
「んむ……」
一生懸命頷こうとしているらしい。
でも頭がぐらぐらしていてちょっと怖い。
「よっ、と」
電車が来てしまう前に、小さい身体を抱き上げた。
そうするともっと幼い頃みたいに首に手を回して、弱い力で精一杯俺に抱き付いて、甘えるような動作をする。
「いいよ、寝て」
「んー…」
あやすように背中を暫く撫で続けたら、すぐに耳元から寝息が聞こえて。
ああでも、また少し、大きくなったなぁ。
「司、荷物」
「ありがと」
蒼志の気遣い出来るイケメン振りは相変わらずで、俺の荷物を代わりに持ってくれた。
今日見てて思ったのが、こいつ結構良いお父さんになるんじゃないかってこと。
想像出来ないけど。
「あお、」
どうしてかわからない。
ただ声をかけようとして、でもそうしたら、電車が滑り込んでくる音がして。
振り返った蒼志に、何でもない、と、そう返すしかなかった。
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