「ハンカチ持った?」
「うん!」
「ティッシュは?」
「もった!」
「お帽子は?」
「かぶった!」
「じゃあ行こうか」
「わーいっ」
玄関まで駆けていく桜。ツインテールがぴょこぴょこ揺れて可愛らしい。
俺ほんと髪の毛いじれるようになれて良かった。手先不器用じゃなくて良かった。
「父さん、いってきます」
「いってきまーす!」
「行ってきます」
「いってらっしゃい、気をつけるんだよ」
本当は父さんも一緒に行く予定だったんだけど、午後から仕事が入ったらしくて、どうも休めないんだとか。
「父さんも気をつけてね」
「ありがとう」
さあ、ピクニックに行こう。
「思ったより混んでんだ、電車って」
「あー…休日だからな」
最寄り駅まで桜のペースで歩いて、駅のホームへ降りたら思いの外沢山のひとがいた。
普段から徒歩通学だし電車に乗る機会が少ないから、勝手がまるでわからない。
同じ徒歩通学の蒼志も、普段は専ら歩きかバイクらしいので、電車とは縁が無いそうだ。
ついでに免許のことは気にしてはいけない。原付だと思えば良いんじゃないかな、うん。
「桜、大丈夫?」
「へーきだよ」
「辛くなったら言えよ」
「だいじょーぶだもん」
やっときた電車は満員と言わないがひとが多くて、到底座れそうにない。
まあ二駅ぐらいだから何とかなるだろう。
それより俺は、視線が気になる。
十中八九隣のイケメンに対してのものだ。いやそれしかない。
髪を黒くしたから、不良っぽさは多少残るものの、どっちかって言うとワイルド系?あたりのイケメンになっている。
…ほら、女子ってちょっと強引な男子に弱いし。
「何だよ」
「いや、イケメンだなー、と」
「はあ?」
「あっちゃんかっこいいよ!」
「……ああ、ありがとな」
何だよ、俺が言うとそんなに信じないか。
ただ桜と比べたら確かに雲泥の差があることは認める。
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