side 蒼志
「……恥ずかしい奴」
妙な心地を誤魔化す様にそう言ってやれば、司は元々赤かった顔を更に染め上げて、俺の肩あたりを叩いた。
最初にご褒美云々言い出した時はどうしたかと思ったが、こいつの性格上、自分だけの我が儘のためにそんなものを強請るなんて、よく考えれば有り得ない話だ。
そもそも、それは褒美という名称をつけなくても、一言怪我するな、と言えば潔く聞き入れてやるというのに。
「わかった」
「……マジで」
「その代わり、俺の順位が上がったら」
まあ何であれ、俺だけ言うことを聞くってのは不本意な訳で。
「勿論くれるよな」
「…な、何を?」
「ごほーび」
口端が自然と上がり、机越しに司の頬をゆるり撫でると、司は勢い良く後退った。
「あ、あああんたが言うとエロく聞こえる!」
「あ?どこがだ」
「全部だ!」
「心外だ」
「微塵も思ってない癖に!」
桜が居る時にする大人びた顔は、ここにない。
常に年相応の顔をしろとは言わない、ただ、そういう瞬間があっても良いだろうと思う。
「さ、そろそろ寝るか」
「……ソウデスネ」
「拗ねんなよ」
「拗ねてない」
「餓鬼」
「ガキで結構」
「はいはい俺が悪かった」
ぐしゃり髪を掻き回し、そういえば、自分はよくこいつの頭を撫でてる気がした。
…丁度良い位置にあるというか、撫で回したくなるというか。
「蒼志」
「あー?」
「いっそ一緒に寝たらいいんじゃないかと思うんだけど」
「…何でだよ」
「あんたがそれ聞く?」
大体、存在が丁度良いんだ。
在るのが当然というより、当然に在るからいけない。
女が隣に寝ている時は抱き締めるのが当たり前。
男を横にして寝たことはないが、寒気がする。
でも司だと、何となく、大丈夫だった。
「お前、よく俺に抱かれて眠れるよな」
「誤解を招くような言い方はやめてください」
「俺だったら殴ってる」
「じゃあ何で蒼志は俺のこと抱いて寝んの」
「誤解招くような言い方すんな」
「よし、次抱きついてきたら熱湯注いでやる」
「冗談だ」
「…あれだよ、蒼志、思ったより体温高いから」
「……暑いだろ、それ」
「あー、どうかな、結構安心すんだけど」
「あっそ」
「聞いといてその興味の無さ」
「俺も結構安心する」
「あっそ」
「恥ずかしがってやんの」
「うるさい」
結局、俺がこいつと今一緒にいるのは、それが当たり前だから。
「拗ねんなって、つーちゃん」
「つーちゃんって言うな!」
04.ご褒美は
(人間湯たんぽ)
(これから夏なのにな)
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